ファイヤーエンブレム聖戦の系譜

□トラキアの大地で
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レンスター城の私室でティニーは朝食を終え、読書をしていた。気持ちの良い快晴で夏がほどなく近い、清々しい空気の中、侍女の声が響いた。
「ティニー王妃、アルテナ様が面会にお越しでございます」
「アルテナ義理姉が?」
「こんな朝早くに?今日は、こちらに来るご予定はなかったはずではなかったかしら」
ティニーは首を傾げるが、うれしそうな声で言った。読んでいた本を無造作にテーブルに置くとすぐに立ち上がった。
「応接室にお待ちになっておりますので」
「ええ、分かったわ。すぐに参ります」
レンスター王宮の応接室に入ると、アルテナ王女が優雅にお茶を飲んでいた。ますます日々美しくなってきたアルテナはトラキア女王としての風格が表れている。それも、アリオーン王子の影響なのは見て明らかだった。
「ティニー」
アルテナは、ティニーの姿を見ると楽しそうに微笑んだ。
「アルテナ義理姉様!」
「ティニー、久しぶりね。2ヵ月ぶりかしら」
「はい。アルテナ義理姉様もお元気そうでなによりです」
ティニーはアルテナの前に座ると侍女が準備した紅茶に口を付ける。
「ティニー、天気も良いしリーフもいないことだし私と飛竜で散歩しない?」
「えっ?」
「たまにはあなたとゆっくり話もしたいし、たまには息抜きもいいでしょう?」
アルテナはウインクをするとまるで子供が悪戯を思いついたように、意味深な笑顔で微笑んだ。
「はい、でもトラキア女王がお忍びでこのような所にいてもいいのですか?」
「いいのよ。城はアリオーンと重臣達に任せてきたから」



「わぁ、すごい景色」
ティニーは歓喜の声をあげる。目の前にはトラキアの荒々しい大地が広がっていた。すぐ後ろにいるアルテナはふふと笑う。
「飛竜に乗って空から見る景色は、地上とは違うでしょう?」
「はい、旧トラキアの領地が一望できますね」
「レンスター王国の領地とは違って、トラキアは、緑は少なく険しい山々に囲まれているわ。大地も作物を育てるのに適していない。それゆえに他国に傭兵として雇われ生活ををするしかなかった」
「そうですね。それしか方法がなかったのかもしれません。」
「それでも、戦争を起こしてはいけないわ。人々に悲しみや憎しみしか残さないもの。綺麗事かもしれないけれど私はトラキアの平和を守り、国を発展させていく」
強い口調で言うアルテナの表情は気高く美しい女王そのものでティニーは今は亡き従姉の面影を重ねた。
「そうですね。微力ながら私も協力させて下さい!」
「ありがとう、ティニー。」
「それでアルテナ義理姉様にはお考えがおありなんですよね?」
「ええ、じつは鉱山の開発を始めていてアリオーンと銀が産出される鉱山に視察に行ったの。銀は今まで武器に使われていたけれど、これからの世には装飾品を作って他国にどんどん売るつもりよ。ミレトスから細工職人も呼び寄せるつもりなの」
「それは、良い考えですわ」
「まず、国民の幸せを考えるのが女王としての務めですもの」
「ええ、でもご自分の幸せも考えてください」
「そうね、国民の生活が平和で安定すれば考えるわ」
アルテナはふと淋しそうな表情をした。
「早くアリオーン王子とご結婚して下さい。リーフ様もそれをお望みです。」
「ティニー、でもそれは....」
「何を迷っておられるのです?」
「アリオーンの事をよく思わないレンスターのものも今だに多い。レンスターとトラキアの歴史を考えれば当然なのだけれど。まして帝国側としてセリス公子と敵対していたわけだから。」
「アルテナ義理姉さま、だからこそレンスターとトラキアの溝を埋めるには愛し合っているお二人が結婚することが一番なのです。」
「もちろん私もアリオーンと一緒にこれからを生きていきたい」
後ろを振り向くとアルテナの頬には涙が伝っていた。
「大丈夫です。必ずその願いは叶います」



3年後...トラキア城で盛大に結婚式が執り行われた。純白のドレスに身を包み、まばゆい笑顔でアリオーンに微笑むアルテナ。女王としてではなく、一人の女としての結婚を象徴するように頭上には王冠ではなく、オレンジの白い花でできた花冠が可憐に輝いていた。

その二人を見守るように祭殿には2本の槍、地槍ゲイボルグと天槍グングニルが温かな光に包まれていて寄り添うように置かれていた。

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