鬼畜眼鏡

□出張に行きましょう
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「来週の福岡出張のことだが」
御堂は執務室で自分の机の前に立つ人物に話し掛ける。
「はい。なんでしょう?御堂部長」
部下の表情で克哉は緊張しながら御堂の言葉を待っていた。
「専務からの指示で私と君が一緒に福岡出張に行くことに決まった」
「そうですか。それなら資料の制作を急がなければいけませんね」
「ああ。福岡の支社長は手厳しい所があるから、完璧な資料を頼むよ。佐伯くん」
「はい、お任せ下さい。御堂部長」
克哉は御堂の執務室を足早に出ていった。

「御堂部長、今回の福岡出張は東京とは違う市場の偵察って事ですか?」
福岡行きの飛行機の中で隣に座る御堂に話し掛ける。
「そうだな、東京と福岡では同じ商品でも売れゆきが違う。東京で売れ行きが良くない商品が福岡ではそう悪くもなかったりするしな」
「そうなんですか。ちょっと緊張しますが御堂部長が一緒なので大丈夫ですね」克哉は、ふと部下である表情をくずし無意識に御堂の前で恋人の表情で微笑む。
「そうか......それより」
御堂は突然声のトーンを落とすと内緒話をするように克哉の左耳に手のひらを添えた。
「福岡支店では、今みたいな表情をするんじゃないぞ。絶対部下の表情を崩すな。約束を破ったりしたら...分かっているな」
御堂は、話を終えると克哉の耳をペロっと舐めた。
「ひゃっ!やめて下さい。こんな所で」
克哉は真っ赤な顔をして御堂を睨んだ。周りにはサラリーマン達がいたが幸いこちらを見ている様子はない。
「ちゃんと、夜まで我慢するんだぞ」
御堂はニヤリと笑うとコーヒーを優雅に口へ運んだ。

「御堂部長、なんとか無事に終わりましたね」
「ああ、君がまとめてくれた資料のおかげでスムーズに会議が進んだぞ佐伯くん」
「ありがとうございます。」
克哉は笑顔で答える。
「とりあえず、時間は早いがホテルに戻ってゆっくりしょうか?佐伯くん」
「はい!」
「佐伯くん、せっかく福岡まで来たのだから中洲辺りで食事でもと思っていたのだが」
「それも、魅力的だったんですがちょっと疲れてしまって」
「そうか、なら食事をしたら早めに休むとしようか」二人はホテル内のレストランで食事をすませると足早に部屋に戻った。
「克哉」
部屋に戻ると御堂は手を克哉の額に当てた。克哉は御堂の手を無意識に振り払った。
「どうしたんですか?いきなり」
克哉は、作り笑顔で答える。
「やはり私の気のせいではなかったようだな。君の様子が少し違うような気がしていたのは。なぜ具合が悪いことを私に言わないんだ」
御堂は厳しい顔でしばらく克哉を見ていたと思うと、急に引き寄せて抱き締めた。
「私はそんなに頼りないのか」
「いえ、そんなことありません」
「じゃあ、なぜ具合が悪い事を私に言わない」
「それは.....」
「迷惑をかけるとでも思っているんだろう。」
「は..い」
「まったく、君は.....私は君の上司でもあるが恋人だろう。頼ってもらえないのは正直悲しい。」
御堂は傷ついた表情で呟いた。
「そんなつもりはまったくなかったんです。」
「だったら、これからはなんでも私に遠慮などせずにもっと甘えたり、わがままを言ってくれ」
克哉はやさしく微笑むと御堂をじっと見つめた。
「分かりました。じゃあ、一晩中手を握っててくれますか?」
御堂はその言葉に苦笑しながら克哉をベットに寝かせると、やさしく手を握る。
「克哉、それはわがままではないだろう。」
「いいんです。今は御堂さんの温もりが欲しいから」
克哉はにっこり微笑むと御堂の手を握り返す。
「分かった。一晩中手を握っててやるから、ゆっくり休むといい」
その言葉に安心したように克哉はすぐに眠りに落ちた。
「おやすみ」
眠りについた克哉にささやくと御堂は額にそっと口付けた。

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