牙狼

□冷たい月
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「ゴンザさん、鋼牙は今夜も帰って来ないのかな?」
カオルは、2晩帰って来ない鋼牙を思いながら広い食卓で寂しく食事をする。
「大丈夫ですよ。鋼牙様は必ずお戻りになります」
「そうだよね。なんたって黄金騎士だもんね」
「そうでございますともカオル様」
カオルは自分に言い聞かせながら、ゴンザの作ってくれた食事を平らげると、早々と部屋に戻った。ベットに入っても一向に眠くならないカオルはそっと屋敷の裏庭にでると青い月を見上げた。なぜか瞳から涙が流れていく。
「あの時の月みたい...」

母が亡くなり、面識のない親戚夫婦に預けられたカオルは子供の居なかった夫妻に優しく迎え入れられた。冷たくされた覚えも怒られたおぼえもなかった。ただ家族のぬくもりを感じた事はなかった。そして、施設に入ることになった前日、親戚夫婦はカオルを元気づけるためにささやかながらもてなしてくれた。カオルはその夜寝付けずに空を見ると冷たい青い月が浮かんでいた。


≪すっかり遅くなったな鋼牙≫
「ああ、早く屋敷に戻るぞ」
≪そうだな。カオル先生も首を長くして待っているだろうからな≫
「なんか言ったか?」
鋼牙は足早に足をすすめると、あっというまに屋敷が見えてくる。
≪おかしいな≫
「どうした、ザルバ?」
新たなホラーの出現かと鋼牙は身構える。
≪いや、ホラーじゃない。カオルの気配が裏庭からする≫
「何!」
≪別に危険はないと思うが、何たってこんな時間に裏庭にいるんだ?≫
詳しい時間など分からないが日付はとっくにかわっている時間なのは間違いない。鋼牙は裏庭に方向を向けると気配を消してカオルの姿を探した。
≪カオル、泣いているみたいだな。お前さんが帰ってこなくて心配でもしていたんじゃないのか?≫
「いや、違う」
普段から交わす言葉こそ少ないものの鋼牙はカオルの様子を見て自分の事で泣いているのではないことを確信する。
「カオル」
自分の一番会いたい恋人の声が後ろからして一瞬びっくりしたように肩を揺らすとカオルは素早く涙を拭いて笑顔を作り鋼牙を振り返る。
「おかえり」
「ただいま」
「なんか、眠れなくて月を見ていたの」
「そうか...体が冷えるぞ」
鋼牙はカオルを引き寄せると強くだきしめた。
「なぜ、泣いていた?俺には話せないことか?」
「泣いてなんかないよ」
「嘘を言うな」
「そのうち鋼牙には話すから待っててくれる」
「ああ、分かった」
鋼牙は、そっとカオルを離すとその濡れていた睫毛にそっとキスをする。
「鋼牙...」
≪おいおい、お二人さん俺の存在わすれていないか?≫
「きゃっ!ザルバいたの!」
カオルは慌てて鋼牙から離れる。
「カオル、屋敷に戻るぞ」
鋼牙はカオルの手を取ると照れているのか後ろを振り返らずに歩き始めた。カオルはその手の温かさに心まで安らかになっているのを感じ、微笑んだ。

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