Intangible proof

□プロローグ
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遠くから沢山の子供達の声が聞こえる。

何を話しているのかは判別できないが、そのどれもが楽しげに響き、ようやく訪れた平和を惜しむことなく享受している。



外続きの回廊には眩しい光が差し込み、見上げる空は目に染みるほどの青。



そんな穏やかな、ある日曜日。















「ねえネビル!」


「ネビル、またハリー・ポッターの話聞かせてよ!」


「…あのさ、どうすれば僕の事教授って言ってくれるの…?」



ホグワーツ敷地内第2薬草温室。

数人の低学年の生徒達が薬草学教授に着任して間もないネビルを取り囲んでいる。お目当ては英雄ハリー・ポッター。その武勇伝を聞くためだ。



「ねえネビルってば〜。」


「き、君達!
いい加減にしないと減点するぞ!?」


「…っぜ〜んぜん怖くないよ〜っだ!」



彼は持ち前の親しみやすさ故、こうして生徒達から実にナメ…慕われている。その点において唯一悩みが有るとすれば、誰も自分を教授扱いしてくれないことだ。



「…はぁ。誰でもいいから、たまには僕の事を…」


「―ロングボトム教授。」


 
そう、ロングボトム教授と……っえ?

ネビルは願いを叶えてくれたその声に、あぁ折角言ってもらえたのに、名前で呼ばれるのに慣れすぎてすっかり反応が遅れてしまった。



「…ロングボトム教授?」



「えっ、あ、僕…?」


「ネビルったら自分の名前忘れたんだ!」
「アハハハッ!」


「―こら、教授に失礼でしょ!」


「「「…は〜い!」」」



突如現れたその女性の優しい叱責に生徒達は揃って温室から逃げていった。どうしてあの子達は自分の言うことだけ聞いてくれないのだろう。ネビルはガックリと肩を落とした。



「ロングボトム教授。」


「―はいっ。」


「良かった。ずっと違う人に声を掛けていたかと思いました。」



そう言ってその女性はクスクスと小さく笑った。
人懐っこいその笑顔と派手すぎない出で立ちは、一目で好感が持てそうだ。実際にネビルも初対面ながらどこか彼女に安心感を覚えている。



「私、明日から薬学の授業を受け持つことになったんです。それで、薬草学の教授に挨拶しようと思って。」


「あぁ、あなたが校長の仰っていた!」


 
薬術学教授と薬草学教授は切っても切れない間柄である。
ネビルは内心どんな人が薬学教授に就くのか戦々恐々といていたが、あのスラグホーンよりも気の良さそうな人物を目の前にしてホッと胸を撫で下ろした。
学生だった頃のあの薬学教授が余程印象深かったのだろう。



「ネビル・ロングボトムです。どうぞよろしく。」


「ナナコ・プリンスです。こちらこそよろしくね。」


「………へ?」



撫で下ろしたはずのネビルの胸を、いや〜な黒い影が横切った。まるで幽霊とでも鉢合わせてしまったような、でもこの学校では幽霊なんて珍しくもないわけで……



「…どうしたの?」


「……えっ、いやその…プリンスって珍しい苗字ですね、なんて…」


「そうかしら。」


「そ、そうですよね。僕も1人知っていると言うか、知っていないと言うか…」


「フフッ、ネビル君て面白いのね。」



優しく朗かなその笑顔。
しかしネビルにはどうしてか先ほどのような安心感が湧いてこない。なぜだろう、彼女の背後に何か黒い気配を感じるのだ。


 
「―あ、校長の所に行かなきゃいけないんだった!今度授業で使う材料の打ち合わせしましょう?」


「…はい。」


「じゃあねネビル君。」



温室を出ていくナナコの背中を見て、ようやくネビルはまともに息が出来た心地になった。

それにしても、あんな人当たりの良い人に今の態度は失礼だったかもしれない。折角彼女は自分の事を…



「………あ。」



そしてネビルは重大な事実に気付いた。



「…ネビル君て…。」



彼をロングボトム教授と呼んでくれる人物は、当分現れないだろう。







 
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