Intangible proof
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―AZKABAN―
その7文字が刻印された図面の上を3つの白い駒が確りと寄り添って、縦横無尽に巡らされた線の上を進み、時に後退しながら、とある箇所へと行軍している。
「資料庫…。」
「本当に、ここが?」
「あくまで表向きの表記です。実際は、行ってみなければ解りません。」
3人が見守るなか彼女らの分身である駒達はその資料庫へたどり着き、そしてパタリと動かなくなった。つまり作戦の解説は以上である。
それから後はマクゴナガルの言うように、行ってみなければ解らない。
「…マクゴナガル校長。」
「どうぞMr.ポッター。」
小さく手を上げたハリーをマクゴナガルが指名する。
「つまりこれは…纏めて言うと『頭から突っ込む』って事ですよね?」
「省略して端的に集約すれば、そうです。」
忘れていたわけでは無いのだが、そう彼女は狡猾なスリザリンでも機知と叡智のレイヴンクローでもなく、勇猛果敢なグリフィンドールに選ばれた女性なのだった。
「…プリンスさんの出身寮はどこですか?」
「え、ハッフルパフだけど…。」
「………了解。」
グリフィンドール+ハッフルパフ=当作戦。ハリーはその図式を明確に了解した。
自分が今日ホグワーツに来なければ、これをたった2人で決行しようとしていたのだから末恐ろしい。ここは1つ自分が手を加えなければ。ハリーに潜んだ微量のスリザリン成分がその頭の中を駆け巡る。
図面上に蔓延る幾つもの黒い駒。これは確実に分が悪い。せめてこの駒を少しでも減らせたら…でもどうやって……
「……―そうだ!」
「どうしたのポッター君?」
黒い駒を減らす方法。
この図面の中から消す方法。
「僕に考えがあります。」
「何か閃いたのね?お聞かせ下さる?」
ハリーはそれに力強く頷くと、図面の上から白のナイトを取り上げた。
「…確かに、それなら確実に潜入は容易になりますね。」
「でも、これじゃポッター君が…!」
「僕は大丈夫。約束します。」
不安げに眉を寄せるナナコにハリーは相変わらず凛々しい瞳を向けてくる。
彼の協力に賛成はしたものの、彼女の思いは決して変わっては居ない。つまりは彼を危険に曝したくはないと。
しかし彼のもっともな提案を上回る才能や覆す力が彼女に有る訳でもなく、思いとは裏腹に彼を頼るしか出来ない自分をナナコは口惜しく思った。
「最悪、今夜の決行は見送ることになりそうですね?」
「なるべく急ぎます。今すぐ車を……」
彼を信じるしかない。
“彼”のもとへ辿り着くには。
「…ポッター君、姿現しは使える?」
「え、はいできますよ…?」
「……私に付いてきて。」
そう言ってナナコは席を立ち、その思わぬ行動に呆然とするマクゴナガルとハリーを尻目に校長室の外へと歩き出した。
敷居を一歩越えたところで振り返れば、丁度ハリーがマクゴナガルに目配せをしている。付いていけば良いのかどうか意見を求めているのだろう。
ややあってそれにマクゴナガルが1つ頷くと、ハリーはやっとこちらへ向かって足を進めてきた。
彼が追い付いてきたところでナナコも踵を返し目的の場所へと歩き出す。
その場所を思い返すと、夏の記憶に繋がる。あの夏の思い出はいつもその場所から始まる。
ふと、手の平にあの頃の感触が蘇った。
そっとこの手を握る、あの大きな手の温もり。
それを確かめるように、愛しむように、ナナコはギュッとその暖かな幻想を握り返した。