Intangible proof
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「ねぇネビル! 本当は来てるんでしょ?ハリー・ポッターが!」
「教えてよ〜会わせてよ〜!」
「ぼ、僕は知らないって言ってるじゃないか!こんな所まで付いてきて…君達、校長に言い付けるぞ!?」
「わ〜!ネビルが怒った!」
「逃げろ逃げろ!キャハハハ!」
「………」
職員寮へ差し掛かる一歩手前で、数人の生徒達が黄色い声を上げながら走り去って行く。
ポツンと取り残されたネビルは深く、底が無いほど深くため息を吐き、慌ただしさから一秒でも早く解放されようと足早に自室へと帰った。
「―あ、ネビル。お疲れ。」
ただしそこには、その嵐の発生源とも言える張本人が居るわけだが。
「お疲れじゃないよ〜もう。学校中君の噂で持ちきりなんだから。」
「そうなの? まいったなぁ。」
「まいってるのはこっちだよ…。」
まぁまぁそう言わずに。とハリーは戸棚に有ったはずのマグカップをネビルに差し出してきた。その素っ気ない見た目と中身の上品さが織り成すミスマッチはネビルの小さなイライラをポキリと折った。
「男2人でワインか〜感動して涙が出そう。」
「そう言うなって。マクゴナガル校長からの労いなんだから。」
「それじゃ飲まないわけにはいかないね。」
「―そうだ、ナナコさん呼ばないか? 彼女だってメンバーだったし、」
「男2人じゃ寂しいし。」
「こだわるねネビル。じゃ呼んでくるよ。」
ハリーはテーブルの上に広がった本やら書類やら雑誌やらの隙間にカップを無理矢理捩じ込んでソファを乗り越え、マットだかジャケットだかよく分からない物体を踏みつけてようやくドアへと辿り着く。
「来るまでに片付けとけよ〜!?」
男やもめ暮らしの悲惨さを身に染み込ませ、転がり出るようにして部屋から飛び出すと、
「―ひゃっ、」
「―ぅあっと、」
危なかった。あと0.5秒早かったらこの誰かとぶつかるところだった。
「すいませ……あ、ナナコさん。」
「…ハリー君!」
何と言う奇遇だろう。丁度良いとハリーはさっきの話を持ち掛けることにした。しかし、出会したナナコはそれより先に突然彼の右腕をガシリと掴んできた。
「遊び心よ!」
「……はい?」
息を尽かせて、しかし満面の笑みでそう言い出したナナコは呆然とするハリーに更に言葉を捲し立てる。
「遊び心だったのよ! きっと私がいつまで経っても頼りないから、見かねて教授が教えてくれたんだわ!」
「………」
余程疲れていたに違いない。とうとう彼女は気を病んでしまった。
ハリーはナナコを哀れみ、また自分に何もできなかった事を悔やんだ。
(すいませんでした教授、ナナコさんを守りきれませんでした…。)
*****
ドサッ ドサッ
床に積まれた本の上にまた本が重なる。
ややあってまた1冊、そして2冊。
物は多いながらもスッキリと片付いていた薬学教授の自室は、今や足の踏み場の確保も難しいほど散らかっている。いったいこれ程の物がどこにしまってあったのか、スネイプが見たら卒倒するであろう。
「…有った!ナナコさん!」
「こっちも見付けた!」
部屋の両端でほぼ同時に声を上げたナナコとハリーは息もピッタリに中央のデスクに駆け寄ると、手にした本を開いてそれぞれ見せあった。
「予感的中、ですね。」
「うん。教授ならきっとメモを取ってくれていると思った。」
「…それにしても…」
「…なに?」
「いや、教授って案外ロマンチストだなって…愛されてますねナナコさん。」
「―も、もう!からかわないでよ…。」
別々の意味で赤い顔をした2人はまた散り散りに本を漁り始める。そして最終的にはデスクに6冊の本が開いた状態で集められた。
どれにもスネイプの字で注釈や改良、応用の手順や素材が書き込まれている。
その6冊には共通してある素材が付け加えられていた。
『ナナコ』