Intangible proof
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11.
ハリーは隙間無く並ぶ本の中から一冊を引き抜くとパラパラとページを捲り、ある項で手を止めた。
『投与した薬品の強制奪取による負荷とその危険性』
細かい字で書かれたその詳細を冒頭から丁寧に読み始めた彼は、その割には何の関心も無いような顔をしている。
そして頭に入った筈もない速度で読み終えると何の興味も無さそうにその本をもとあった隙間に戻した。
隣の部屋の話し声が耳へ割り込んでくる。よく知る声。3人の声。その中でも時おり聞こえる低い声は、その度にハリーへ突き刺さる。
目の前に並ぶ本はどれもその題目だけで読む人間を選ぶ物ばかり。ハリーはその中からまた一冊を手にとって、とにかく、何でも良いから、眺め続けた。
「―成る程。私がここに居る経緯は大体把握できました。」
「…随分と落ち着いてらっしゃいますねセブルス。」
「慌てふためく我輩をご覧になりたかったのでしたら、それは残念でしたな。」
「いいえ、まさか。」
とは言いつつその顔には確りと残念の二文字が滲み出ている。
何せ自分達の大活劇を語り終えた後なのだ、少しはビックリして欲しいと言うマクゴナガルの気持ちも解らなくはない。
ナナコとマクゴナガルはベッドの上で壁に背を預けて座るスネイプを囲んで事の一部始終を語った。ほぼマクゴナガルの独壇場であったが、この場合彼女が適任だ。
しかし彼女達が彼にそれを聞かせたのは、なにも自慢話をするためではない。一連の出来事、そして今現在この現状が如何にして起こったのかをスネイプの知恵を交えて議論するためである。
「それにしても誰があんな…教授をアズカバンに連れ去るなんて事したんでしょうか?」
「確かにあの場には省に席の有る者も何人か居ましたが、そんなことを仕出かすとは考えられませんわ。」
「…おそらくは“身内”でしょう。
デスイーターと言っても忠心的だった者を除けばあとは力に屈伏していただけの烏合の衆。旗色が悪くなったあの方を見限った輩が、私を使い魔法省に取り入ろうとした。そんなところでしょうな。」
まぁ人の事を言える自分ではないが、と密やかに自嘲を漏らしたスネイプは、しかしそれをナナコに感付かれたようで素早くその表情を消した。
そう易々と心配をかけてなるものか。こんな時の彼の口はことさら軽快に言葉を重ねだす。
「ところでウッズ、お前の言うことを纏めれば我輩のこの状況は事故であるとなりますな。研究がその手を離れてから何らかの改良が施されたかも知れないし、訳の解らんマグルの薬と同時に投入するとは…考えが足りん。」
「仰る通りです…。」
どこからか聞こえたショボンと言う効果音と共にナナコは体を縮ませる。
「セブルス、そんな言い方をしては彼女が不憫だわ。現に私達がこうして顔を交えていられるのは彼女のお陰なんですから。」
そんな彼女の肩をマクゴナガルが庇うように慰めるように抱えた。ナナコ顔は冴えず、まるで断崖の暗い淵に立たされているかのような不安と恐れが隠されている。
「いやだから、そう言う事を責めているのではなく、もう少し慎重にと…。」
思い詰めている彼女に追い討ちを掛けてどうする。思ってもいない事をつい言ってしまうその性分にはマクゴナガルは勿論当の本人もほとほと参ってしまう。
スネイプはあぁともうぅとも唸った後、ウッズと低く呼んでその顔を上げさせた。
「要はただ偶然が重なっただけではないか。どうやらお前は一世一代の大事を成し遂げた気でいるようだが、勘違いもいいところだ。」
またそんなことを、と今にも声を荒げそうなマクゴナガルは隣でその性悪をポカンと見つめるナナコに気付き、込み上げたそれをなんとか飲み下した。
不憫な子だ。実に不憫だ。
「…いいか、これは事故だ。お前の創意などでは及びも付かない偶然だ。」
「………」
しかし、これはどうしたことか。
その不憫な子はほんのりと頬を染め、それこそ誉められて照れている人が見せる仕草で「はい」と答えるのだ。
…あぁ成る程そう言う事か。
そしてマクゴナガルは遅ればせながら彼の真意に到達した。
まったくよくも目の前で見せ付けてくれるものだ。彼女はそう心の中でぼやいたとか、本当にぼやいてしまったとか。