Intangible proof

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友人。

伴侶。

我が子。

家庭。



満たされれば満たされるほど、幸せになればなるほど、それに比例して深くなってゆく暗い空洞。

その根底には彼が居るのだと思っていた。彼から受けたものを返す事で、その穴もいつかは埋ると考えていた。

でも、僕は見た。そこに居たのは彼ではなかった。




「今まで僕は、恩だとか後悔だとか、そう言うのが自分を突き動かしているんだと思ってました。
教授の生きた証を残すことが、僕の使命だと思ってました。」




幸せに満たされていく中で、ふと立ち止まると黒い面影が過る。そして思う。今ここに有る幸せの意味を。

その度に胸が苦しくなり、そして空洞は大きくなった。そう、そこに居たのは…僕だった。




「…では見付けたのじゃな、答えを。」




その穴の中の僕は、僕にも気付かれないよう密かに肩を震わせ悩んでいた。

あの日垣間見た彼の生涯。父や母、僕らに関わったせいで狂ってしまった彼の人生の歯車。その彼が守ってくれた命で幸せを手にした自分。
彼がそれをどう見るか心配で、怖くて。それは罪悪感と言えば近いだろうか、それを僕は深い空洞に隠して見えないようにしてきた。

しかしそれに耐えきれなくなった僕は、自分でも知らないうちにその言い訳を探し始めた。それであの日ホグワーツへ向かったのだろう。

彼もまた幸せであったのだという、その言い訳を探しに。




「教授は、幸せでしたか?」


「おぉ、ハリーよ。愛する者を持つお主なら良く解っておるはずじゃ。」




そして、僕はそれを今日見付けた。
彼の幸せの証を。

だから、だから僕はとても、




「……良かった…。」





















何もかもが寝静まった深い夜。動きを止めた階段の上でハリーは頻りに自身の膝を抱えていた。
一見するとそれは見た者を心配させる姿だったが、彼の内はその真反対である。

ようやく閉じた心の穴。今彼は本当に満たされることができた。
自分と同じ様に、彼もまた誰かを想って安らぎを感じたんだろう。その心で、誰かを側に感じていたんだろう。

ハリーはその気持ちを知ってる。
それは愛で、それは幸せだと言うことを。



「ダンブルドア校長、」



しかし顔を上げた先の額の中にはもうその姿は無く、大きな木が地平線の向こうから運ばれてきた風にゆっくりとそよいでいるだけ。いかにも彼らしい。ハリーはそう微笑んだ。

その時不意に、細やかな光が彼を包み込む。背後からのようだ。
ハリーがその元を辿って後ろを振り向けば、その人物は彼が座る数段上からこちらへ向けて杖をかざしていた。



「―居た!もうハリー君、探したのよ。」



本当に探し回ったのだろう。ナナコは突然居なくなった青年を、心配させた仕返しにと眉を潜めて睨んでいる。

そう言われれば、怒った顔で上から見下ろしてくるその雰囲気がどこか彼に似ているかも。と、そんな彼女をよそにハリーは思わず笑ってしまった。



「こ、こら。笑い事じゃないでしょ。」


「すいません。…ちょっと懐かしくなったんで、散歩してたんです。」



そんなハリーの優しい嘘にナナコはだからって夜中は危ないでしょ、と教師らしく言葉を返して、彼女らしく笑う。

そうか成る程、この笑顔か。ハリーは少しスネイプの気持ちに近づいた気がした。
これが彼の幸せの証なのだ。




「ナナコさん、ありがとうございます。」


「え、あぁ、うん。どういたしまして…?」




当の本人は何に対しての礼だったのか見当も付かない様子だったが、探しに来た事へだったのだろうと結論付ける。




「校長がハリー君に部屋を用意してくれたって。職員寮の空き部屋だから、案内するわね。」


「お願いします。…そうだ、さっきの話の続きなんですけど。」


「ぅえっ!!」


「やっぱり、もういいです。困らせてごめんなさい。」


「へ?いや、こちらこそ…?」


「…それにしても懐かしいな〜。 あっ、その教室!あそこで僕が3年生の時に………」




ハリーとナナコは彼女の杖灯りを頼りに、彼の学生生活の思い出をお供にして職員寮へと向かった。あぁそうだ。この手紙と写真、どうやって返そうか。


その2人の背中に、どこか遠くでハリーと同じ緑の瞳が優しく微笑んだ気がした。






 
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