Intangible proof

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温もりを感じた。



懐かしく、優しく、それでいて胸を締め付けるような。






フワリと浮上した意識。その泡沫に見慣れた天井が映った気がする。


そして微睡みに浸かる身体にその温もりの気配を見付けた。


この左手。これはこの手が覚えている記憶なのだろうか。






視線の先、揺らめく視界の中には





「…ナナコ。」





























優しい声が聞こえた。



懐かしく、優しく、なのに胸を締め付けるような。






ユラリと波を打つ水面。その閃きに優しげな口許が見えた気がする。


そしてたゆとう波間の向こうで、深い夜を湛える瞳と出会った。


黒い瞳。これはこの夜が見せている夢想なのだろうか。






交わる視線、揺らめく視界の中には





「…教授。」




























「ここに居たのか。」




「私はここに、ずっとここに居ました。」




「そうか。」




















また
また



意識が白む。
水面が揺れる。



沈んでしまう前に、
流されてしまう前に、



温もりを握り締め、
その手を握り締め、



離さないでくれ。
もうあなたから離れない。











あぁ、沈んでゆく。
あぁ、流されてゆく。



それでもお前を
それでもあなたを



もう決して離しはしない。
もう決して離しはしない。











 
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