Intangible proof

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翌日のAM8:45分にハリーはホグワーツから発っていった。ナナコとマクゴナガルはもう少しゆっくりしていけば良いのにと引き留めたが、家族が心配していますからと言われてしまっては、せめて最後まで見送るしか他に彼への感謝を伝える術はなかった。

南の空へ小さくなって消えてゆく中古のローバー200SLi。別れ際のハリーはとても清々しい顔をしていた。






*****







昨日まで続いていた頭痛はサッパリと消え失せていた。ならばと彼はその上半身を捻り太股に力をいれ、床に少しずつ足の裏を密着させて体重を掛けてみる。


(しばらく安静にしててくださいね。)


そんな彼女の言葉が頭を過ったのは、調子づいて立ち上がったその勢いでバランスを崩しベッドの上に倒れ込んだときで、そしてナナコが部屋に戻ってきたのは丁度その直後だった。



「どうしたんですか教授…」


「いや…少しストレッチを。」


「あんまり無理しないで下さいね?」


「解っている。」



どうやら彼女には感付かれずに済んだらしい。スネイプはベッドへ座り直しもう一度素足を下ろした。
石床に直接敷いたマットはしっとりと冷たい。



「ハリー君、帰っちゃいましたね。」


「……お前、授業はどうしたんだ。」


「今日は土曜日です。」


「そうか。」



バツが悪そうに指を弄るネイプにナナコは溜め息混じりに微笑むと、その隣へストンと腰を下ろした。



「また近い内に教授とお会いしたいって、ハリー君が。」


「…何と答えた。」


「教授に聞いてみないと解らないって…」



ナナコの目にスネイプの素足が映る。彼女は毛布を手繰り寄せると「病人扱いは止せ」と顔をしかめる彼の膝に広げ、ついでに余った長さを自分の膝にも延長した。



「ホグワーツに集まってあれから1週間…いえ彼はもう何年も教授の為に、」


「あぁ解っている。解っている…」






彼は深く息を吐きながら頭を項垂れ、その額を手の平で支える。



(…今まで僕や母さんの面倒を見て下さってありがとうございました。)



またもや生還したあの少年…青年は、自分が失った3年の間に随分と変わった。



(でも、僕はもう大丈夫です。一人で歩けます。支えてくれる人も居ます。)


 
3年。そう、ほんの一時に思えるその失った歳月は、どうやら人を更に一回り大きくして見せるほど重厚な3年間だったらしい。



(だから教授、これからはどうか、あなたの人生を生きてください。
…それが僕と母さんの願いです。)







スネイプは額に当てた手で眉間を強く揉み込むと、また深く息を吐いてナナコへ顔を上げた。



「お前が最良だと思う返事を返してやれ。」


「…はいっ。」



スネイプの苦渋を知ってか知らずかナナコは満面のニコリ顔で、まぁこの笑顔を見れただけでも良しとするか、と考えた現金な自分を彼は密かに叱責した。












「…ところでナナコ。念のため聞いておくが、まさか、もしやとは思うが、ポッターは私達の事を知ってはいないだろうな。」


「―ゔっ!!」



……―ゔっ、だと…?
ようやく回復してきた平均値より悪い顔色が、見事なほどにサァッと色褪せる。



「おい、まさか…」


「で、でも私が言ったんじゃないんですよ!?ハリー君が私達の写真と手紙を見付けて、」



ナナコはハッと口を噤んだ。
見える。目の前の男から暗く陰湿なオーラが大気に沸々と波を立てているのが見える。



「フッ、そうか…成る程、やはりピーブズの子はピーブズと言うわけだ…」


「き、教授…?」


「……会わん。」


「えっ?」


「会わんぞ、断じて、二度と会うか。誰が好んで会うものか。」


「あぁ、教授そんなこと言わないで、ハリー君だって謝ってたし、」


「会わん。」


「教授〜!」




再三にわたるナナコの懇願も虚しくスネイプの頑なな拒否はその日の夕食時になっても変わらず、ついにはマクゴナガルまで巻き込む大交渉劇へと発展する。見ているこっちが疲れてしまう内容なので、ここは勝手にやっててもらおう。
ただ結果だけご報告するとしたら、ナナコのお願いを無視できるようなスネイプではないのだ。




 
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