Intangible proof
□エピローグ
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どこかの国では靴を放り投げて天気を占うらしい。我が国にそんな高性能の靴が無いからか、それにしても今日の天気予報は大外れだ。
「…『今日は快晴が続くでしょう』か…」
新米薬草学教授ネビル・ロングボトムは、廊下の窓辺に肘を付いて土砂降りの中庭を恨めしそうに眺めていた。
確かに、朝方は良い天気だった。それにしてもこれは酷いんじゃないか?
そんなに睨んでも雨は止まない。どうやら今日の箒でお散歩デートの予定は変更するしかないだろう。
あぁ、こんなに残念な事はない。なにせ彼女ってば箒に乗る姿がまた可愛くって…
「―あ、居た居た!」
「ネビル〜!」
「えぇっ!? また君達かい…。」
甲高い声と共にいつもの低学年の生徒達が走り寄ってきた。
ディープ・ブルーなネビルとは裏腹に、悪天候など目にも入っていないような彼等の快活ぶりは目眩すらおこしそうだ。
「ねぇねぇ、教えて欲しいことあるんだ!」
「おねが〜い!」
「何度も言ってるけど、ハリーの事で君達に教える事は何も無いよ!…もう彼の事は放っといてあげてほしいんだ。」
「「………」」
少しきつく言い過ぎただろうか。
いや、例え相手が幼い少年少女であっても、彼の友人は好奇の目に去らされる事を良く思わない。英雄扱いされることを。
そんなネビルに子供達はキョトンと顔を見合わせ、そしてその真ん丸な目をまたネビルへ集めた。
「違うよ。」
「違うよ。」
「わたしたち絵の事を聞きに来たの。」
「…絵?」
「この前、皆で校長先生のとこに遊びに行ったんだ。」
「そしたらね、知らない人の絵がいつの間にか増えてたんだよ。」
「真っ黒い男の人。全然動かないし、喋らないんだ。」
「………」
一瞬、外の激しい雨音も快活な子供達の声も何もかもが止んだ。違う、聞こえなくなった。
そうか、この子達は彼を知らないんだ。
自分が丁度彼等くらいの頃このホグワーツに確かに在ったあの威圧感、存在感を。
「ネビルはあの黒い人知ってる?」
「…うん、知ってるよ。」
彼を知らない、あの壮絶な戦いの渦中を知らない、新しい世代の子供達の無垢な瞳が無邪気に並んでいる。
「あれは誰?」
「あの人は、僕が学生だった時の薬学の教授だよ。」
ネビルは壁伝いのベンチに腰掛けると子供達をその周りに集めた。
「あの人は、とても厳しい人だった。
あの人は、とても信念の強い人だった。
あの人はね―………」
雨は止まない。何もかもを流して連れ去るように降り続く。
その喧騒を背景にして、ある男の物語がひっそりと、新しい平和な時代を生きる子供達の為に、静かに語られる。