Restaurant Tanner
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あれから一週間が経った。
あの日彼が来てからというもの、やけに昔の事を思い出す。
こうして夕刻前の安穏とした時間に読むでもない新聞を捲っていると、なおさら記憶が勝手をする。
みんな悪い夢だった。そう自分に言い聞かせて良い思い出もみんな捨ててきた。そのはずなのに。
なのに、どうして彼は来てしまったのだろう。
カウベルが鳴り店の扉が開く。
さぁ、気持ちを切り替えて、お客さんをお迎えしなければ。
きっと大丈夫。こうしてこのレストランで過ごす内に、きっとまた忘れられる。カールや気の良いお客さん達に囲まれて、料理を作って、そうやっていれば、忙しさの中に埋もれてゆくだろう。この記憶も、この想いも。
今度こそ、もう二度と彼と会うことは無いのだから。
それにしても、こんな時間にお客さんだなんて珍しい。たしか先週あの彼が来たのもこんな時間だった。