s h o r t
□contrail
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雲ひとつない空は不思議な青色をしている。
「ちょっと、そこの君。」
廊下でリリーと談笑(主にアルがストロベリーオンザオニオングラタンスープを食べてお腹を壊した話)していたら、背中にかかる黒い髪が印象的な美しい女性に声をかけられた。母くらいか、それか母よりも若そうだ
「あなたスリザリンでしょ。」
「はい。」
「わたしあなたの先輩よ。」
「は、はい。こんにちは。」
だからどうなんだろうともちろん思ったが、同時にうちの寮はそんな人ばっかりだったと納得する。
左やや後ろからはリリーの警戒と威嚇が、見なくてもひしひしと伝わってくる。
「あら、あなた・・・もしかして・・・」
その人は僕をじっと、いやまじまじと僕を凝視し始めた。
左やや後ろではリリーの攻撃的な警戒と威嚇が、あたりの生徒を蹴散らすほどに轟々と渦巻いている。
「・・・薬術学の教授はお元気?」
「はい、あの、」
「案内していただける?」
「・・・はい?」
ほら行くわよ、とその女性は案内しろと言ってきたくせに先に歩き出してしまった。僕は慌ててその後を追って、その後ろからはリリーの破壊的な警戒と威嚇が、足音をたててついてくる。
大人の人の、さらにヒールを足した歩幅にはついて行くのがやっとで、誰なのか何しに来たのか聞く暇がなく、あっという間に薬術教授自室、母さんのいる部屋の前まで来てしまった。
僕とリリーは顔も真っ赤に息が上がって、黒髪の女性を見れば今にもドアにノックをするところだった。
「あの、」
スルリと流れる黒髪、涼やかな造形のその顔はあれだけの早さで歩いてきたのにさっきとまるで変わっていない。・・・いや心なしか頬が上気して見えるのは、やっぱりこの女性だって痩せ我慢して見せているのだろうか。
トン、トンッ
ややあって部屋の向こうの方から足音が近づいてくる。そしてガチャっと、古そうに重そうにドアが開く。
「は〜い・・・・・・!」
「・・・・・・!」
鉢合わせた2人は見るからに息を飲んでいた。どちらも互いが目の前にいることが信じられないと言った様子だ。
そして先に言葉を発したのは母だった。母はコロリと表情を変え嬉しそうに言った。
「お元気でしたか。」
女性は驚いたようだっが、
「・・・やっぱりあなたって変わってるわね。」
そう言って笑った。僕はこの女性が笑ったところを初めて見た。すごく綺麗だった。
思わず見とれていたら、年下のリリーに僕の首根っこを掴まれて引きずられながらの退場となってしまった。
遠ざかりながら、母と女性が楽しげに部屋に入っていくのが見えた。
「誰だったんだろうね。」
僕を引きずるリリーを見上げて聞いてみた。
「私分かったわ。きっと、」
リリーは足を止めて息巻く。
「きっと、おじさんの"元カノ"よ!」
「ひぇっ!? 父さんの!!?」
「あなたの家しばらく荒れるんじゃない?」
リリーは鼻息も荒くそう断言した。
僕にはそういうのはよく分からないけど、でも母さんは嬉しそうだったけどな。
廊下から中庭が見える。
雲ひとつない空は不思議な青色をしている。
そこを一筋の白い雲が駆け上ってゆく。
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