□目頭
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椿は困惑していた何故この人とは要らぬ運があるのだろうか
現状はというと椿が自主練に行こうとしたところ持田がいきなりETUのクラブハウスにやって来たのだ
そして監督の居場所を聞きたいと言うから椿は探してきますと言ったが
あれこれあって一緒に探すことにまで至る
パーカーを被り羽織ってはいるがマスコミが居れば大騒ぎにもなりえる為
持田からのプレッシャーも(かなり)あるが両クラブへの気遣いからも椿は緊張していた
一方の持田は舌打ちとか、よっしゃとか呟いていた恐らく携帯ゲームに現を抜かしているのだろう椿は涙が出てきそうだった

「あの、持田さん・・・」

「あ、死んじゃったじゃん」

「ええっ?!」

「このキャラ当たり弱すぎ」

「なんか、すんません・・・」

自分のことに聞こえて
冷や汗が背を濡らす
面白い奴だと思ったんだけど、とたぶんキャラを変更しているのだろう持田がすると妙に社会裏を見ているようだった

「別に椿君の事じゃないよ」

「は、はぁ・・・」

話をどう解釈したら良いかわからず椿は相手の出方を伺う
そんな空気を感じたのか持田は鼻で笑う
しかし重度の臆病者に苛立ちなどという感情がある筈もなく
単純にも恐怖に飲み込まれていた

「だって実力あるじゃん」

「っ?!いや、あの、そんな、俺なんかまだま「このETUの中での話だけどねー」

羨ましいねウチならボールボーイで雇ってくれるかもよ、と
付け足して椿を上げ落とした
つもりだったのだが

「え!俺ここが丁度良くてそんな美味い話は頂けないっス!」

間を空けて途端に特有の笑い声が響き渡る
ツボにハマったらしい持田の反応に椿は驚き硬直した

「っこりゃまあ達海さんが御気に入りになるわ」
「た達海監督がっ?!」

尾があればはち切れんばかりに振るであろう様子に
持田は笑うのをやめた

「結構、シケさせてくれるよね」

「え?あ、すんません!」

「別にいーんじゃない?つか達海さんとこわかったから行くわ」

何で気を悪くさせたのか解らない椿は兎に角咄嗟に綺麗なお辞儀をするが
其れ他所に持田は携帯を弄っていた

「場所・・・何で・・・」

「何?俺達の監督とメールすんなって感じ?」

「・・・いえ」

「なんだ」

「俺の、です」

円滑だった指が止まる
ゆっくりと真正面の椿に向き直ると
お互いただ知れぬ空気の装いになる

「やっぱり、後々嫌な奴になるなんて思ってたけどまさかピッチ外でとはね」

超ウけるし、と携帯が曲を鳴らすと即座に対応して椿に対しニヤっと笑んだ

「ごめんね達海さん、直ぐ行くからそんな怒らないでよ・・・うん、なんか椿君にしつこく呼び止められてさ」

椿がそんな言いがかりにムッとする
証拠にも両手はわなわなと震えているが殴るつもりではない

「もう切り上げるから、じゃまた後で・・・」

耳から携帯を離すとそういう事だから、と
軽く別れを告げ椿は会釈をした

「邪魔なんて考えない方がいいよ」

「邪魔なのは持田さんでしょう」

また特有の笑みを溢し
持田は今までのやり取りなどなかったように歩き始めた
嫌気が指す椿はさっさとグラウンドに行こうと
踵を返すがまた曲を遠く耳にしてしまい
刺さるように目が熱くなった



end


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