平助×千鶴

□エピソード参『伝えられない・伝えたい』
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あれ?あそこにいるの、・・・千鶴じゃねぇか?
巡察から戻ってきたとき、縁側でボーッとしている千鶴を見つけた。



「千鶴っ!」



「平助君」




オレに気付くと彼女はふわりと優しい笑顔を見せた。
それに思わずドキッとしてしまうオレ。
ヤバイヤバイ、平常心だ・・・・。




「どうしたんだ?こんなとこで」



「・・・ひなたぼっこ?」





言いながら笑う千鶴の笑顔にふと違和感が感じられた。
オレに向かって笑いかけてるはずなのに、どこか遠くに視線を向けている気がする。





「平助君は巡察の帰り?お疲れ様」



「あ、あぁ・・」





やっぱ変だ。今の笑顔に明るさが感じられない。
むしろ笑顔に影が射していて、・・・・どこか悲しそうだ。





「・・・・・千鶴」



「何?平助君」





前髪をそっと手で押しとめ、俺を見上げてくる彼女の顔は
やっぱり寂しそうな笑顔。



思わず抱きしめたくなる。





――けど、それができなくてそっと千鶴の手を握った。
ゴメンな、千鶴。オレ…、こんぐらいのことしかできねぇや。




オレたちは別に付き合ってるわけではない。
単にオレが片思いしているだけだ。
けど、今は大変なこのご時世・・・・。気持ちを伝えるわけにはいかない。
どうしようもないんだ・・・・――





「なんかあったのか?オレでよかったらなんでも聞くぞ?」



「・・・・・平助君」





一瞬千鶴の瞳が潤む。
そして、彼女は先ほどの悲しい笑顔ではなく、
今度はさっきよりも、優しく・・・優しく微笑んだ。





「ありがとう、平助君」






と、オレ向かって小さくに囁きながら。












伝えたくても、伝えられない。
けど、いつかきっと伝えたい。









“大好き”だって伝えたい













続く@
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