04/20の日記

21:15
さくらあめ
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朝から雨が静かに降っていた。
先週末に満開を迎えた桜は、その短い華やかな時間を、雨によって更に削られようとしている。冷たい雨に流されて、はらはらと花びらが散っていく。

桜雨はちっとも美しくない

 少し強めの風が吹いて、水分を含んだ花びらが雲雀の頬にまとわりついてきた。それを無造作に指で拭って、薄汚れた花びらを地面に落としていく。地面に落ちた花びらは、既にコンクリートと見分けがつかなくなっていた。
 本当にあの子は間が悪いな、と考えながら、雲雀は桜の木を見上げた。雨に叩きつけられて、ひっきりなしに花びらが散っていく。それがまたも顔に降ってくるのを不快に感じながら、それでも雲雀は桜の木から離れることなくその場に立ち尽くしていた。

「雲雀さん!!」
 視線を落とすと、傘をさして駆けてくる綱吉の姿が見えた。ひどく慌てた様子でこちらに走ってくる。不機嫌なのを露に雲雀は綱吉を睨みつけた。
「遅いんだけど」
「す、すみません…母さんに頼まれごとしちゃって。というか、傘はないんですか?」
「いらない。邪魔」
「ダメです、風邪引きますよ!!」
そう言うと綱吉は心配そうに雲雀に傘をさしかける。それを片手で押しやって、雲雀は一歩後ろに下がった。
「君が風邪ひくでしょ。僕はいいよ」
「よくないですから。一緒に傘、入ってください」
 ね、と言いながら綱吉は優しく雲雀の手を取って傘に中に引き入れた。雲雀は無言でそれに従って、そっと傘を見上げた。
「すみません…なんか雨降っちゃて。せっかくお花見できるかと思ってたのに」
「本当に君は間が悪いね」
 雲雀の言葉に綱吉は小さく苦笑を漏らした。
「あ、でも。これはこれで綺麗かも」
 雲雀に倣って傘を見上げた綱吉が呟いた。傘には花びらがたくさん落ちていて、視界を遮っていた。
「桜吹雪の中にいるみたいですね」
 これで雨が止んだらなーと愚痴を零す綱吉と、傘の先の桜を交互に見ていた雲雀は、ひどく不思議な気持ちでいっぱいだった。

 さっきまで全然綺麗じゃなかったのに

 今、綱吉と一緒に眺めている桜雨は、先程とはうって変わって鮮やかに色づいていた。薄汚れて見えた花びらは、半透明な桃色に色づいて、傘の上を流れていく。足元に降り積もっていく花びらは、春の雪のようだった。

 綱吉といるだけでこんなに世界が違うなんて

なんだか悔しくなって思わず軽くその頭を殴ったら、綱吉は少し嬉しそうに雲雀の頬に残っていた花びらを優しく払い落とした。
「雲雀さんといると、不思議となんでも綺麗に見えちゃうんですよね」
 その言葉を聞いていよいよ顔を赤くした雲雀がトンファーを取り出すと、綱吉は傘を投げ出して全力で逃げ出した。

「雲雀さんは分かりやすいなぁ…!!」
 絶対に本人には言えないけれど。

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