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□デレツンデレ
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「えーと。それはのろけてるのかい?」
先ほどから生暖かい笑顔を浮かべて黙って話を聞いていたエドガーが、全く表情を変えないままたまりかねて口を挟んだ。
「違うわよ。悩み相談をお願いしてるの」
王の目の前で足を組み、ふんぞり返っている少女はとてもお願いをしているようには見えない。
美しい長い金髪をかき上げて、照れ隠しのようにつんと尖らせた唇は嫌になるほど魅力的だ。本当に嫌になるほど。
「話ぐらいならいくらでも聞くよ。でも、どうして私なんだい?」
「だって、こんな話ティナにはできないじゃない。リルムにはまだ早すぎるし…」
確かに恋を知らない少女達には話すことをはばかられる内容だろう。しかし、同室の彼女らをおいて、自分のところに押しかけてくる彼女に少し腹が立った。
こちらの気も知らないで、男の部屋に一人で上がりこむとは、その上、他の男の話を聞かされるこちらの身にもなって欲しい。
彼女は自分の容姿の美しさと、何気ない仕草が男の視線を惹き付けていることに意識したことなど全く無いのだろう。
無自覚とは恐ろしいものだ。
「悔しいのよ、私」
セリスは綺麗な弧を描く眉をぎゅっとひそめた。
「なんか、ロックにもてあそばれてるような気がして」
それはないだろう、と即座に思ったが口には出さなかった。
不器用なあの男がそんな真似できるはずも無いし、彼女の話を聞く限りでは、ロックはべたべたに彼女を甘やかしているように感じた。
「彼はいつも冷静なのに、私ばかり動揺してから回って…。涼しい顔をしてるロックがむかつくのよ!」
要するに恋愛というものに不慣れなセリスは、ロックにいいようにされているのが気に入らないらしい。
どうにかして奴を慌てさせて、自分が主導権を握りたいそうだ。
「私は男心なんてさっぱり分からないから、何か言い案が無いか考えて欲しいの!」
手を組み合わせて、上目遣いで見上げた少女にエドガーはすっかり顔に張り付いてしまった笑顔を向けた。
いや、この少女は無自覚なんかじゃない。絶対わかっていてやっている。確信犯に違いない!
こんな表情を向けられて、ノーと言える男がいるだろうか。
「そうだな…。つまりは、奴をひざまずかせて言うことを聞かせたいんだろう?」
「…え?そこまでは言ってないんだけど…」
「男を虜にするのにはちょうどいい手がある。セリス、私の言うことがきけるかい?」
にやっと笑ったエドガーに、セリスは首を傾げて次の言葉を待った。