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□デレツンデレ
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とりあえず二人は、しょっちゅう二人きりで過ごすことにした。
セリスはエドガーの部屋に入り浸るようになり、パーティを組む時も必ず一緒で、食事の時は隣に座るようにした。
元々セリスとエドガーは仲が良く、二人で話し込むことはよくあることだった。その大抵は丁々発止のやり取りで、
ふざけたエドガーにセリスがきつい言葉を投げつけるものだったが、そのせいかあらためて親密になったそぶりを見せつけても、それを不思議に思う者はなかなかいなかった。
それはロックも同じだったようで、彼は以前と変わらない様子だった。
計画はうまく運ばずセリスを苛立たせたが、意地になった彼女は計画を中止にしようとは言わなかった。
「エドガー、そんな歯の浮くような台詞よく恥ずかしげも無く言えるわよね」
小声で囁いた言葉は他の仲間達には届いていないだろう。夕食後の談話室で壁にもたれてこそこそと話す二人は、仲良く内緒話をしているように見えているはずだ。
「なぜ?私は心から思ったことを口に出しているだけだよ」
これもいつもの風景だ。エドガーは女なら(たとえそれが幼いリルムであっても)誰彼かまわず褒め称える癖があるので、セリスの美しい髪を鳥肌が立つような言葉で例えるのは日常の出来事なのだ。
「君が美しいのは髪だけじゃない。この麗しい体のラインは、まさに神に愛された至高の宝だよ」
そう言って、エドガーはセリスの腰を抱きこむように引き寄せた。
いつもならここでセリスが彼の手をつねり上げるなり後頭部を張り叩くなり、何らかの抵抗をするのだが、この日のセリスは違った。
「あら、そんな言葉は他の女にも惜しげも無く言ってるんでしょう?」
挑戦的な瞳で見上げたセリスを至近距離で見つめて、エドガーは色っぽく微笑んだ。
「心外だな。今の私は君にしか目に入っていないというのに」
セリスの浮き出た腰骨の形を確かめるように、するっと腰をなで上げると、セリスが調子に乗るな、とでも言わんばかりに思い切り足を踏みつけてきた。
挑戦的な笑みを崩すことなく見つめ合う二人に(実際にはにらみ合っているようなものだが)、仲間達は異様なものでも見るような目を向けていた。
その不自然極まりない二人の態度にある者は首を傾げ、不幸な者はロックから見えない位置で凶悪にニヤリと笑った二人の表情に背筋を凍らせるのだった。
(いつもは当てつけられている可哀相な私なんだ。たまにはこんな役得があったって罰は当たるまい?)
エドガーのひそかな言い訳は彼の心にこっそりと仕舞われたのだった。