いばらのユノー
□帝国の娘
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朝焼けに遠く霞む静かな街並み。
夜から抜け出たばかり、鳥のさえずりさえまだ眠りの中だろう。
白い息をはいて、少女はきびしい眼差しで街を見下ろしていた。
ここはマランダ。
豊かな水源と緑に囲まれた、美しい街。
穏やかなはずのいつもの朝は、この日ばかりは違っていた。
静かに見えた街並みのあちらこちらに兵士の姿がひそんでおり、固く閉ざされた家々の扉は裏からつがいが幾重にも打たれているだろう。
住民たちは戸を閉ざし、眠れぬ夜を明かしたばかり。
「もう、そろそろ、限界だろう」
街を一望できる少し離れた丘の上で、白い息の少女はつぶやいた。
「二日経った。この街の人間は戦に慣れていない。早く終わらせなければな」
冷たい青い目を細めて、背後に陣を敷いた自分の部隊を振り返る。
「私はマランダ公に対し、何度も降伏しろとの通告を送ったにもかかわらず、今まで一通の回答もなかった!
これは我らガストラ帝国に対する宣戦布告である!」
けして大きな声をあげているわけでもないのに、その声はよく通り兵の耳にわずかな余韻を残す。
眠れぬ夜を明かしたのは少女が従える兵達も同じ。しかし、よく鍛えられた兵は戦の前の興奮のせいか、疲れを微塵と感じさせない。
「勝利を我らに!!」
高らかに剣を掲げた少女の声に続き、兵達はそろって鴇の声をあげた。