いばらのユノー
□道標
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少女は途方にくれていた。
たまには違う道を通ってみようと、普段使わない階段を降りたのが間違いだった。
少女が思っていたよりこの建物は大きく複雑で、ひどく入り組んでいた。
少女に与えられた部屋の方向へ進んでいたつもりが、いつまで経っても見覚えのある景色は見えず、今では自分がどこから来たのかもわからない有様だ。
廊下に面した扉は、どれも分厚く他人をはねつけているようで、立入禁止の文字が見る者に威圧感を与える。
時折すれ違う人は、皆何故こんな所にいるのかと怪訝な目で少女を見るだけで、誰も話しかけてこない。
目線だけでにらみつけてやると、彼らは一様に視線をそらし足早に立ち去っていく。
少女も自分から声をかける事はしない。
自尊心の強い彼女は、他人に助けを求める事なんて考えつきもしないのだ。
少女は泣き出したい気分を押し殺して、疲れた足を引きずっていた。
そして幾度目かの行き止まりに突き当たり、ついに溜息をついた。
気が付くとすっかり人通りは耐えて、日が暮れてきたのかどんどん寒くなってきた。
日照時間の少ないこの地域は朝晩はひどく冷えるのだ。
たくさん歩き回って、もう足が棒のようだ。粟立つ肌を抱きしめて、かじかみ出した指先に息を吹きかけてみる。
切なげに目に染み入るようなライトを見上げて、ふと暗がりにある扉が少し開いているのに気付いた。
忘れられたように廊下の片隅にあるその扉は、今までの重たそうな扉と違い、汚れと錆が浮いていたがとても軽そうで、彼女の力でも簡単に開きそうだった。
ギィィィ・・・
彼女が手をかけると、何もしていないのに、勝手に扉が軋みながら開いた。
入れ、と言われているようで、少女は恐る恐る中に向かって一歩足を踏み出した。
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