short
□reminiscent
1ページ/3ページ
―――やあ、本当によく来てくれた。随分久しぶりじゃないか。ここに来るまで大変じゃなかったか?
いや、ゴーグの機工士は仲間意識が強い上に血の気が多いからさ。・・・そうか、良かった。
これでもここに戻ってきた頃は、誰か口封じに来るんじゃないかってびくびくしていたんだぜ。でも何年経っても誰も来やしない。
教会は新しい王様に尻尾振るのに忙しくてそれどころじゃないのかもなぁ。
おっと、そうだった。あの時の話をするんだったな。
う〜ん。いろいろ話すことは考えてあったんだけど、さて何から話そうか。
あんたから見たら、俺達はあの騒ぎの中心にいた様に感じられるのかも知れないけど、俺達は決してそんな風には思っていない。
あれは、たくさんの策略とか陰謀とかが絡み合って・・・なんというか、大きな流れのようになっていた。
俺達はそれぞれの陰謀にほんの少しだけ関わる事もあったけど、ただただ大きな流れに流されていただけで、全てを見通せたわけじゃない。
むしろ下手に流れの中に入ってしまったから、全体を把握できていないとも言える。
うん。だから、あんたの本が出来上がるのが楽しみなんだ。
あんたの本を読んで初めて俺達がやった事の結果がわかるような気がする。
はは。うん期待してるよ。
俺達は教会を懲らしめたいだとか、世の中を変えたいとか、そんな事は何一つ願っちゃいなかった。
それはあいつもそうだったと思う。
俺はそんなに信心深いほうじゃないけど、教団の秘密を知った時はそれなりにショックだった。
仲間の傭兵達もそれぞれ衝撃を受けてたみたいだったし、騎士さん達はもっと、見るからに落ち込んでた。
俺みたいな下々の者より、上流階級の人らの方が信心深いんだろ。
そのくせ、元貴族の御曹司だっていうあいつは誰よりけろっとしてた。
きっとあいつは教団の不正を暴こうとか、異端者にされちまった自分をなんとか元に戻そうとか、そんなことは全然思いつきもしなかったんだろうな。
あいつはもっと利口に振舞おうと思えば、いくらでもできたはずなんだ。
でも、そうはしなかった。
あいつは自分の信じる正義にだけ忠実だった。
俺達はただ目の前に立ちはだかる壁をぶち壊そうとして、足掻いてただけだった。
でも、今から思うと、足掻いただけで一つも壊せてなかった気がするよ。
最初はお姫様を助けようとして・・・でも結局は失敗だった。次は戦争を止めようとしていろいろ動いたけど、これも駄目だった。
最後は攫われたあいつの妹を助けようとして。
・・・これは結果はわからない。あいつも、あいつの妹も、あんたの義父殿も、どうなったのか。真相は闇の中だ。
うん・・・。あの時の話か?これはあんまり話したくないんだけどな。
・・・悪い。・・・あんたは知る権利があったな。
今から話すのは、俺達が見たあいつと雷神シドの最後の姿だ。
俺達はあいつの妹を助けるため、ルカヴィが待つオーボンヌ修道院に向かって旅支度を用意していた。
これが最後になる、誰もがそう思っていて、いつもは賑やかな俺達も雰囲気は最高に重かった。
空は分厚い雲に覆われて薄暗く、雨が今にも降り出しそうな天気で、まさに俺達の旅路を暗示しているかのようで、嫌な気分だったな。
そんな時、あいつがみんなを集めて言ったんだ。
僕一人で行くってね。
・・・冗談じゃないって思ったよ。
一人でなんて死にに行くようなもんだ。
ここまで一緒に来たのに、今更あいつを見捨てられるもんかってね。
皆口々に文句を言ったけど、あいつは聞く耳を持たなかった。
あいつは見かけによらず、ものすごく頑固なんだ。
そうしたら、一人、すっとあいつに近寄って諭すように話しかけた。あんたの義父さんさ。
私はもう失うものはない、一緒に行かせてくれ。この結末をどうしても見たいんだ。聖石リーブラを受け継ぐ者として。
彼の言葉に奴は揺らいだようだった。
また一人女が歩み寄った。
元神殿騎士のその女は、オーボンヌ修道院に父親がいた。
弟の敵をどうしても討たせてくれと、このままでは終われないと彼女は訴えた。
結局あいつは何人かと共に出発した。・・・俺は置いていかれた。
置いていかれた者たちの中には納得できていない奴も多かった。
どうしてだって奴に何度も噛み付いていたけど、奴は考えを変えなかった。
俺達は旅立つ仲間をただ見送ることしか出来なかった。
そこで一週間待った。
天気はどんどん悪くなって、雨も随分降ったけど、修道院が見える位置にテントを張って、俺達は動かなかった。
でも、一日経ち二日経ち、三日過ぎても誰も戻ってくる気配がなかった。
嵐は通り過ぎて、まだ晴れ間はなかったけど、天気は穏やかになった。
でも、俺達の仲間は帰ってこない。ルカヴィが攻め込んでくる気配もない。
そのうち、一人二人と故郷へ帰る奴があらわれた。
俺も皆も言葉少なく、その場を後ろ髪引かれる思いで立ち去った。
残された俺達は、皆故郷や家族がある奴ばかりだったんだ。
俺は最初からそのことに気付いていた。
・・・そう、正直に言うと、俺は奴に置いて行かれてほっとしていたんだ。
足を悪くした親父を一人にする訳にはいかないから、俺はどうしても生きて帰らなければならなかった。
あいつについて行きたい気持ちもあったけど、あいつには俺のこんな思いなんて全てお見通しだったんだよ。
あいつがどんな思いで俺達を残してくれたのか、それを考えると、今でも本当にやり切れない気持ちでたまらなくなる。
ゴーグに戻ってからはあらゆる伝手を使って、オーボンヌ修道院に行った奴らの安否を知ろうとしたよ。
でも、誰もあいつらの行方を知らなかった。
・・・俺は上手く行ったと信じてるよ。
ほら、あんたが一番知ってるだろう。あんたの義父殿は鬼のように強いんだ。
なんてったって雷神様だ。そんな簡単に死ぬわけないだろう。
それに、このイヴァリースはこんなにも平和になった。
それはあいつらがルカヴィを倒して、与えてくれたものなんだって、俺は信じてる。