いばらのユノー

□道標
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どれだけ明日が来るなと願っても明けない夜はない。

時は何時だって無情に私達を連れ去っていく。こちらの心の都合などお構いなしに。

青い空がどこまでも広がっている。気持ちとは裏腹にとても爽やかな気候だ。

セリスは綿のような白い雲の流れる速さをただ見上げていた。

ここはジドール。穏やかな気候と華やかな文化が花開く、芸術の都だ。


つんつんと腕をつつかれ、食べないのか、と声をかけられる。そこで自分が食べかけのソフトクリームを持っていることを思い出した。

ゆるく溶けかけたクリームは今にも零れ落ちそうだ。

慌てて口にしようとしたところで、きらきらと輝く視線に気付く。

「…食べたいの?」

既に自分の分を跡形もなく食べてしまったガウは、「うん!」と顔を輝かせた。



獣ヶ原でモンスターに育てられた、という少年ガウ。

そんな特異な環境で過ごしてきた彼は、意外にとても頭が良く、人の気持ちに敏感なところがあるようだ。最近まで、彼はセリスのことを遠巻きに見ているだけで、なかなか近づいてこなかった。しかしこうしてふとした瞬間、気分が落ち込んでいる時にかぎって彼と目が合う。

不思議なことにセリスの気落ちを感じ取っているかのようだ。

以前は、なかなか心を開いてくれくれない彼を、随分な人見知りだと思っていたが、実際の彼は明るくて人懐こい可愛らしい少年だった。

カイエンに懐いている彼は、カイエンと折り合いの悪かったセリスとの接し方を決めかね、どうもああいう態度を取ってしまったらしい。

こんな子供にまで気を使わせていたとは知らず、なんとも申し訳ない気がしてくる。

「あんまり冷たいものを食べ過ぎると、お腹が痛くなるのよ。これ以上は我慢しましょうね」

二つ目のソフトクリームを嬉しそうにほお張る彼を見ていると、自然と口元が緩んでくる。今回はガウとペアで本当に良かった。

体と気持ちがリラックスしている。やっと、今までがひどく緊張していた事に気付いた。


コーリンゲンから発って、丸5日。途中、雨に降られ1日無駄にしてしまったが、その日以外はひたすらチョコボを走らせ、フィガロの遥か南のジドールにたどり着いた。

その道中は、なるべく考えないように、気にしないようにつとめていたが、それでも随分気まずいものだった。

コーリンゲンでのあの夜が明け、ほとんど眠る事が出来なかったセリスが時間を持て余し、たまたまチョコボの厩舎に立ち寄った時のことだ。

運悪く、出来れば顔を合わすのを先延ばしにしたかった彼とばったり出くわしてしまったのだ。

彼も顔色の悪い寝不足の顔をしていた。しかし、セリスに気付くと、「よう」と爽やかに笑った。

「ロック…」

「おはよう。しばらくこいつら走りっぱなしになるからさ。どんな調子か見に来たんだ」

早起きなチョコボたちは餌の野菜を勢い良く食べ散らかしている。


どうしよう…





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