いばらのユノー

□道標
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少しずつ街の中心へと近づいていく。


ゾゾは山に囲まれた狭い土地に築かれたせいか、他の町ではあまり見ることのない、背の高いビルのような建物が多かった。

それも途中から建て増しを重ねたのだろう。下層階と上層階でまるで毛色が違う造形をしていたり、階段が途中でなくなっていたりとおかしな建造物が多かった。

街の中心部へ近づいていくと増々そのような建物がひしめきあっていく。

路地をたくさん歩いたが、魔力の痕跡は未だ漠然としており手掛かりはない。

常に神経を尖らせ、少しの変化を見逃さないようにと気をつけているのだが、寝不足の体には少々つらい。

まるで大きな図書館の中で、一冊だけ間違って陳列されている本を探すような、途方もない感覚だった。

分厚い外套に包まれた体がじっとりと暑くなり、セリスは自分が焦り始めていることに気付いた。



その時だった。

ピン、と張りつめたものが感じられた。

これは魔力だ!


だれかが魔法を使ったのか?ティナ?どこにいる?

今まで希薄だった感覚が一気に肌を舐め、セリスは見えない姿を追おうとますます神経を研ぎ澄ませた。

ぞわりと産毛が逆立つような感触。誰かから語りかけられたような、そして香りにも似たそれは、今までと違い確実に痕跡を残してくれていた。


「見つけました!!あ、あれ?」




周りを見回してみたが、前にも後ろにも仲間の姿はない。
「みんな?ロック?エドガーさん?」

まるで狐につままれたようだ。今まで目の前にロックの後ろ姿があったのに。

まるで魔法のように全員が消えてしまった。
先ほど感じた何らかの魔力で全員転移させられてしまったのか?

いや、それならばもっと確実に強い魔力を感じられるだろう。集団を転移させる魔法はかなりの上位魔法だ。

魔力を感じたあの一瞬が、実は一瞬ではなく長い時間、いや数分程度あったのだろうか。立ち止まっていた間にみんなに置いて行かれてしまったようだ。

セリスは慌てて走り出した。





しばらく走ってみたが、みんなの姿は見つからない。

この道ではないのか?

踵を返し元来た道を戻る。曲がり角を今度は違う方へと曲がってみる。

(いない…)

しばらくその道を走ってみたが、仲間の姿はなかった。

そんなに長い間気を取られていたのだろうか。
誰もセリスがついて来ないことに気付かなかったなんて。
雨のせいで視界も悪いし、周りの音も聞こえづらいので仕方がない。

立ち止まってしまった自分が悪いのだが、セリスは結構落ち込んだ。



いくつかの路地裏も覗いてみたが、浮浪者がいるばかりで仲間は見つからなかった。

万が一はぐれた時のため、街の入り口近くで落ち合う場所を決めていた。おとなしく戻って誰かがやってくるのを待とう。

せっかく手掛かりを見つけたのに。手掛かりが消えてしまう前に早くみんなを案内したいのに。やっと役に立てると高揚した気持ちがあっという間にしぼんでいく。


セリスは肩を落として来た道を戻りかけ、ピタリと歩みを止めた。


目の前を数人のごろつきたちが塞いでいる。
一様ににやにやと口元を歪め、手にしたナイフやらの獲物をちらつかせていた。

(追剥ぎ…)

セリスはさっと振り返り反対方向へ逃げようとした。すると今度は別の男たちが数人ぞろぞろと路地から現れ、後方を塞いでしまった。

徒党を組んだ盗賊たちか。全員が刃物を突き付けじりじりと近づいてくる。

(何人いる?前から4人、後ろに3人…。路地にもまだいる…?)

一人で相手するには少し数が多い。

ドクドクと鼓動が早くなり、冷や汗が吹き出す。

(慌てるな、落ち着いて、切り抜けるには…)
セリスは懐から袋を出し、後ろへ放り投げた。
ギルが入った麻袋だ。

チャリンと音をさせ、袋が地面に落ちたその瞬間、袋の一番近くにいた盗賊が手を伸ばしたその隙を見逃さずセリスは走り出した。

一瞬で背をかがめ全力で蹴り出す、と同時に手をついて後方へ進路を変え、袋を拾う姿勢の盗賊の脇をすり抜けた。

しかし、どこからか出てきた男が目の前で剣を振りかぶっているのが見える。
路地から出てきたのか。

セリスは打ち合おうと右手を剣の柄へ伸ばしたが、抜くことはせず、横っ飛びに転がり、その剣を避けた。

素早く体制を立て直し、走り出したその瞬間、真横から飛び出してきた男に思いっきりタックルされ、セリスは盛大に吹っ飛ばされ、肩から勢いよく壁にぶち当たった。

「ぐっ!!」

まだ路地に潜んでいたのか。
咄嗟でうまく受け身を取れなかった。

態勢を立て直す間もなく、外套を掴まれ、地面に引き倒される。

フードが外れ、顔が露わになる。臭い水溜りの水とゴミが顔に張り付き、長い金髪が石畳に散らばった。

「女だ!!」

1人が叫び、盗賊たちの手が次々とセリスに伸びてくる。
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