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□デレツンデレ
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「これから飲みに行くやつー!!」
盛大なマッシュの号令に、それぞれがはーい!と元気良く手を上げて返事をする。
朝からモンスター退治に出かけ、久方ぶりに飛空艇から開放された夜だった。
小さな町の酒場へと繰り出していく仲間達を見送って、セリスはその場を動かなかった。
「セリス?行かないのか?」
ロックがきょとんとして振り返る。酒好きの彼女はこんな時には必ず参加していたからだ。
「…うん。今日はちょっと…」
セリスは言葉を濁して、傍らに立ったエドガーをちらっと意味ありげに見上げた。
一瞬セリスと視線を合わせたエドガーは、にっこりと満面の笑みを浮かべる。
「私も今日は遠慮しておくよ。私達のことは気にせず行ってきたまえ」
「どうしたんだよ、二人とも。めずらしいな」
「そういう日もあるさ」
ロックはきょときょとと二人を交互に見て、何度も首を傾げながら仲間の後を追っていった。
「ちょっと見た!今の!ロックったら絶対私達のこと変に思ったわよ!」
セリスが心底嬉しそうに声を弾ませた。
そりゃ、酒好きの二人が行かないのだから変に思うだろう。結構鈍いところのあるロックはこの程度では彼女が期待したような誤解はしていないはずだ。
エドガーがセリスに出した提案とは、「ロックを限界まで嫉妬させて焦らせてやろう」というものだった。
浅はかすぎる提案だったが、初めての恋に溺れて周りが見えなくなっているセリスには、この作戦の隠れた真意にも気付いていない。
楽しそうに足取りを弾ませて夜の街を歩く彼女の背中を見つめ、エドガーはくすりと笑った。
こうして、密やかな二人の企みは始まった。