short
□reminiscent
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―――お待ちしておりましたわ。よくいらしてくれました。
ふふふ。あなたからお手紙を頂いたときは本当に驚きましたわ。
ほら、私は素性も名前も変えてここにいますもの。どうやって私の所在を知ったのかしら、と不思議だったのよ。
どなたから伺ったの?父が誰かに教えるはずないし・・・。まぁいいわね。そんなこと。
でも、本当にあなたともう一度会えるとは思っていなかったから、とてもうれしいのよ。
あなたのお義父上には大変お世話になったし、ぜひとも会ってお礼を言いたいと思っていたの。
本当にありがとう。私はあなたの義父上に何度も命を救われたわ。
それにしても、イヴァリースはこの数年の間に驚くほど変わりましたわね。
変化の乏しい、こんな田舎にもルザリアの王様の話は伝わってきますのよ。
彼はとてもうまくやっているようね。
戦争で疲れ果てたこの国で、何もかもがうまくいくはずはないのだけれど・・・。王様は世論を操るのが得意なご様子ね。
彼とは親友だったと聞いた事があるわ。本当に彼とは正反対のようね。
ええ、そうね。今日は彼の話をすればいいのよね。
彼は・・・何と言うか・・・そう、不思議な人だったわ。
傭兵の身なりをしていて、荒くれ者の中にいても彼の品の良さは隠しようがなかった。
物腰は柔らかく、穏やかで、かわいらしい顔をしていたのに、剣を抜くと人が変わったようになってもの凄く強いの。
熱くなると誰にも止められないのよ。見かけによらないでしょう。
とっても不思議に思って、彼自身に聞いてしまったこともあるわ。本当のあなたはどっちなのって。
彼は自覚してなかったんでしょうね。きょとんとした顔してたわ。
普段はね、おっとりしてて、ちょっといたずら好きで、人懐こくて・・・。不思議な魅力のある人だった。
彼の元に集まった人達は、みんなそれぞれ事情を抱えていたけれど、きっと彼の魅力に集まったとも言えるんでしょうね。
彼には、なにかしてあげたい、と思わせる魅力があったのよ。
それに優しい人だったわ。
彼が運命的に手にしてしまった、あの本・・・。ゲルモニーク白書。
彼は私達にあの本をなかなか読ませたがらなかった。
でも・・・人間の好奇心とは恐ろしいものね。まさに禁断の果実だわ。
今でもあの時読んでいなければ、と後悔することがあるもの。
本当に、私は自分の運命に驚いているの。
まさか、教団に追われていた人間が、こうして修道院で僧になっているなんて誰も思わないものね。
ここに来る事が決まった時、とても悩みましたわ。
私は以前のようには神を信じていませんもの。
あの本を読んだとき、私が毎日無意識に得ていた、生きる糧が失われたことを知ったの。
信仰は生まれた時から私を包んでいて、守ってくれていたのに、それを失ってどうすればいいのだろうと、途方にくれたわ。
でも、生きるって意外に単純なものなのかもしれないわね。私はこうして元気に生きている。
信仰の対象は失ってしまったけど、この場所で一生、先の戦争で亡くなった人達に祈りを捧げるのも悪くないかなって。
そう思えるの。
変かしら。
ふふふ。・・・教団からみれば全く異教徒の考え方ね。今話したことはくれぐれも内密にお願いしますわね。
大したことお話しできなくてごめんなさいね。
何かまた聞きたいことがありましたら、いつでもいらして頂戴。
久しぶりに外の方とお話しできて、私もとても楽しかったわ。
・・・あ、あの、私以外にもたくさんお話しを聞きに行ってらっしゃるのよね。
ラヴィアンにはもうお会いになって?
・・・そうなの。
では、もし彼女に会うことがあったなら、どうか、私は元気に暮らしていると伝えてくださる?
何度か彼女の実家に手紙を出したのだけれど、返事がないの。
あなたの調査の途中に、もし会ったらでかまわないの。
会ったら伝えてね。お願いよ。