short

□赤
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この世界はどれだけ汚されようと、やはり美しいのだ。

見上げた空は水にどす黒い絵の具をぶちまけたようなおかしな色で。

大地は赤茶けてひび割れて草木も生えない。

海の群青はどこまでも紫色に染まり、まさにこの世の終末だ。

それでも、私はこの世界は美しいと思う。

洗いざらしの真っ白なシーツがいくつも風にはためいている。

白いシーツ越しに見ると、黒い空だって綺麗に見える。


「セリス、なにしてんだこんなとこで。そんな格好じゃ寒いだろう」

彼の言葉に思考が遮られ、私は不機嫌そうに顔をそむけた。

「洗濯物じっと見て、なにが楽しいんだ?」

情緒のない彼の言葉にますます気分を害され、私は押し黙った。

「ほら、中に入ろう。風邪ひいちまう」

「…………」


言葉を返さない私に、彼は小さくため息をついた。

「ほら、中に入らないならこれを着とけ」

彼は来ていたジャケットを脱いで差し出したが、私は動かなかった。


「いらない。ロックのはいらない」

「っ!お前なぁ!この前から俺の何が気に入らないんだ」


彼は持っていたジャケットをバサッと大きく一振りして、それを私の頭の上から被せてきた。

「だから、いらないって言ってるじゃないの!」

「お前が風邪でもひいたら困るからだろ。ったく何の意地を張ってるんだ」

彼はもがく私を容赦なくジャケットごと押し付けてきた。


「…お前さ、俺がお前に何言われても傷付かないとでも思ってるのか?」


彼の声が普段よりも低くて、私はその顔を見ることができなかった。


「…好きな奴からそんな態度取られ続けると、さすがに俺でも傷付くぞ」

「やめて。聞きたくない!」

私は両手で耳を塞いでさらに体を縮めた。

ああ、彼はなんだって私をこんなにかまうのだ。

頼むから放っておいて欲しいのに。


「嫌だ。お前がわかったって言うまで何度でも言ってやる」


顔を掴まれ、無理矢理上を向かされた。

やめて。やめて。そんな目で私を見ないで。


「俺は、お前が…」


胸にひどい痛みを感じて、私はたまらずかすれた悲鳴を上げた。





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