小説

□2話:邂逅
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「ここが・・・」
「ここがカラクサタウン。」
風がポニーテールの髪を揺らす。
来た事が無いわけじゃないけれど、トレーナーになってから初めて来たからか何だか感動的だ。
「近かったでしょ?」
「・・・なんで着かなかったんだろうな・・。」
本気で不思議そうにしているが、そんなのこっちが聞きたい。
「そういえば道中聞きそびれたけど、ホワイトくんは何でカラクサタウンを目指してたの?」
きょとんとして首を傾げられてしまった。
そんな不可解なモノを見るような目で見ないで欲しい。居た堪れないじゃない。
「君と同じ・・・だと思ってたんだけど。」
「同じ?」
「え?君、ポケモントレーナーだろ?
これからイッシュのジム巡りをするんじゃないのか?」
「え?あ、あれ?言った・・・っけ?」
「言わなくても分かるだろ。大体。
連れてるミジュマルを見れば新米トレーナーかどうかは分かるし、
わざわざ草むらでポケモンを鍛えながら次の町を目指してるんだからバトルが目的の旅なのかなーって。」
「案外色々考えてるのね・・・」
「案外ってなんだよ。」
「ってか同じってことはあなたもポケモントレーナーだったのね。」
何で気付かないんだとジト目で睨まれる。
だってそんなそぶり全然見せなかったじゃない、と視線で言ってみた。
・・・無視されたけど。
「じゃあ俺はこれで。」
「あ、うん。何処行くの?」
「・・・トレーナーだたら町に着いたらまずポケモンセンターだろ?」
「うん。だから何処行くの?」
「だからポケモンセンターに・・・」
「いや、そっちはもと来た道なんだけど。」
「・・・」
「・・・」
「ねえ、あたしもポケモンセンター行くからさ。一緒に行きましょ。」
何か一人で行けるーとかちょっとした冗談だろーとかゴニョゴニョ言ってるのが聞こえたような気がするが気のせいだろう。
ホワイトの袖を引っ張って(引き摺るように)あたし達はポケモンセンターに向かう。


***

「あ!ブラックちゃん!」
ソファーに座ってオムライスを食べている金髪碧眼の少女が口の端にケチャップをつけて手を振っている。
「ベル!」
「なんか遅かったね!」
「あーうん。ちょっとね。」
わざとらしくホワイトを視線で示す。
しかしホワイトは気付かない。
ベルのオムライスに夢中みたいだ。・・・子供か。
「そっちはだあれ?」
「こっちは・・・」
あたしは彼の頭を両手で掴んでベルの方に無理矢理向けた。
「ホワイトくん。一番道路で迷子になってるところを見つけたの。」
迷子と言うところを強調するのを忘れない。
「ふーん?私はベル!よろしくね!」
とスプーンで掬ったオムライスをホワイトの口へ突っ込んだ。ずぼっという擬音がピッタリの動作だ。
「ちょ・・・あんた、自分の口付けたスプーン・・・!」
「あ、ごめんね!ホワイトくん欲しそうに見てたから!ホワイトくんそういうの気にする人?」
「いや、気にしない。」
むぐむぐと口を動かしながら答える。
あたしとこの二人の間にはどこか別の空気が流れているみたいだ。
「で、チェレンはいないの?」
ベルの向かいの席に腰をかける。ホワイトはいつの間にかベルの隣に座っていた。
「会わなかった?さっき出て行ったよ。
まだ町の中にいるんじゃないかな?色々準備があるからとか言ってたし。」
「そう。ベルは?」
「私はこれ食べたら次の町へ行くの。」
「君もジム巡りをするのか?」
知らない内に席に届いたカレーライスをつつきながらホワイトがベルに尋ねる。
「うん。そうだな・・・そうしようかなって思ってる。
というか、まだ迷ってるんだ。」
「迷う?」
「この旅で、私のホントウにやりたいことを探そうと思ってるの。」
自分に言い聞かせるようにゆっくり話す。
その顔に浮かぶ弱々しい笑みはベルらしくなくて不安になる。
「よし!ご馳走様っ!行くぞー!」
普段通りのはずなのに逆に明るさが空元気に見えて痛々しい。
「私は大丈夫。だからそんな顔しないで、ね?」
「あ、う、うん。頑張れ。」
慌てて言う。
自分の声がこんなに虚しく聞こえたことはない。わざとらしくて情けない。
食器が立てるカチャカチャいう音が不意に止まった。
ふたりしてホワイトの方を見る。
「見つかるといいな。やりたいこと。」
初めて見た。
優しい瞳。
誰かを思い出しそうになる。
「うん!ありがと!私、行くね!」
ベルが嬉しそうに晴れやかな表情で立ち上がった。さっきまでの空寂しさは感じない。
ベルはやっぱりこうじゃなきゃ!
「ベル!頑張って!またね!」
今度はちゃんと言えた。
心からそう思えた。
ベルは出口のドアの前で振り返って笑顔で手を振ってくれた。

「行ったな。」
「うん。」
「心配するな。大丈夫だろ。」
「そんなに心配そう?」
あたしも何か注文しよう。
あたしもカレー食べようかな。
「ホワイトくんも笑ったりするんだね。」
「は?」
目をまん丸にする。
歳は同じくらいだと思うけれど、そんな表情をすると随分幼く見える。
「・・・笑ってない。」
「なになにー、照れてるの?」
カレーライスをかき込む姿が妙に可愛い。
自然と笑みがこぼれた。
よし、あたしもカレーにしよう。
あたしも頑張ろうって、そう思った。
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