小説

□4話:試合
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「よーし!今日はジムへ行くわよー!」
「・・・だったら何で俺と一緒に居るんだよ。」
「だってホワイトくん一人で目的地に辿り着けるなんて思えなかったんだもん。」
「ぐ・・・。」
もう彼は自分が方向音痴だと言う事を認めたようだ。
「一人でジムまで行くのが不安だったんじゃないのかよ・・・。」
「ちっ、違うわよ!」
図星。
だって何にも教えてくれないんだもん。余計に不安になるじゃない!
「さあ!ここが夢の跡地よ!」
「・・・話、逸らしただろ・・・。」
「逸らしてなんかないわよ!」
図星。
何だか恥ずかしくてつい声が大きくなる。
「別にいいけどさ。
・・・こういう森とか、野生のポケモンがいるような所では大声出さないようにな。」
「う・・・はい。」

「しかし、ここは何なんだろうな。」
「研究施設・・・の跡っぽい、よね?」
「夢の跡地・・・ねえ。皮肉ってるのか?」
「・・・?」
「どうかしたか?」
「何か、聞こえない・・・?」
ガサガサ。
「やっぱり!」
「ポケモンじゃないのか?この森ムンナ達がいるんだろ?
廃墟で人も居ないし、野生のポケモンがいるんだろ。」
何でそんなに平然としてるのよー。
この辺りは木が生い茂っていて、日当たりが悪くて湿度が高い。
もう結構奥まで来ちゃったからなぁ。
ガサガサ。
真後ろから茂みが揺れる音がして、白い手が、あたしの腕を、
「きゃあああああああああっっっ!!?」
「う、うわっ!?」
ついホワイトに抱きついてしまった。
「あははは!また会ったね、ブラックちゃん!」
「え、あっ、ベル!?」
「結構会うもんだね!ふふふ。二人は随分仲良くなったみたいだし。」
「へ?」
あ、あたしホワイトに抱きついたままだ!
彼は頬どころか耳まで真っ赤になって硬直している。
あわてて突き飛ばすように離れる。
「ベルはこんなところで何してるの?」
「えへへー。ポケモンを探してるの!」
「ポケモン?」
「そう!ムンナ!昨日からずっと探してるんだけどね!」
「昨日からって・・・ここで野宿したのか?」
「うん!野宿って初めてだったけど楽しかったよ!」
こんな短い間に随分逞しくなったみたいだ。
世間知らずな箱入り娘がいつの間にか廃墟で野宿をするようになっていた。
旅に出るって、人を変えるなぁ。吃驚した。
「あ!ムンナ見っけ!」
迷わず草むらに突進していく迫力は以前は無かったものだ。
「ブラックちゃんはこれからジム戦だよね!
頑張って!」
「え!?何で知って・・・!?」
「ホントはブラックちゃんの声が聞こえたからこっちに来たんだよ。
大っきな声だったから。じゃあね!」
さらに廃墟の奥へ行くベルを見送るあたしをホワイトが目を半眼にして非難がましく見ている。
「・・・ジム、行くんだろ?」
「う・・・」
「逃げるなよ。」
「・・・はい。」
「・・・ブラックって案外気が弱いところあるよな。」
「・・・・うるさい。」
わざわざ言わなくてもいいでしょ、そういうことは!


夢の跡地を後にしたあたしたちは真っ直ぐサンヨウジムに向かった。
というかあたしは正直まだジムには行く勇気が無くて寄り道しようとしたらホワイトに毒のある笑顔で「そっちじゃないだろ?」と引き戻されたのだ。
何でこの方向音痴が道のこと分かるのよ!
「大体様子を見てれば分かるだろ。」
くそう!変なところをちゃんと見てるなあ!
そうこうしている内に着いてしまった。
「ああああ、やっぱりあたしはまだ・・・」
「行くぞ。」
いやああ、無理、無理ー!
腕を捕まれてドアを無理矢理潜らされる。
「「「いらっしゃいませー。」」」
え?
「あれ?お前昨日の・・・。」
「そちらのお嬢さんは初めてお目見えしますね。」
「お席ご案内しますか?それとも・・・?」
え?え?え?
ここってポケモンジムだよね?
ジムリーダーさんが居て、ポケモンバトルをして、ジムバッジを授けてくれるところ、だよ、ね?
でもここは・・・どう見ても・・・
「喫茶店?」
なされるがままに4人席に案内されてしまった。
紅茶のいい香りやケーキの甘い香りが上品な空気を演出している。
素敵な雰囲気の喫茶店だ。
「ええ。うちのジムでは喫茶店を営んでるんです。」
緑色の髪のウエイターさんがなぜかあたしの向かいの席に座った。温厚そうな青年だ。いくらか年上という感じ。
さも当然という顔でホワイトが隣の席に腰を下ろす。
「コーンさん。俺、このケーキセット。紅茶はダージリンで。」
「はい。承りました。」
ホワイトが注文を取りにやって来た青い髪のウエイターさんに声をかける。
「で、そっちのお嬢さんは?」
赤い髪のウエイターさんが迷うことなく向かいの緑の髪の青年の隣の席に座る。
「え、あ、ブラックです!」
「そ。ブラックちゃんは何も頼まねえの?」
「えと。あの、あたしは喫茶店に来たんじゃなくてジム戦に・・・」
「まあまあ。僕らは逃げたりしないからまずは紅茶を楽しんでよ。」
「え?僕ら?」
「ああ。私達はこのサンヨウジムのジムリーダーなんです。」
「・・・ええ?」
「まあ取り敢えず注文してくれよ。チャレンジャーにはケーキセット、サービスでタダなんだぜ。」
「ええええ?」
何なのこのジムー。ジムって何処もこんなのなの?
ホワイトは緑の髪のウエイターさんに
「貴方は昨日いらっしゃったのでソレ、タダじゃないですからね。」
と言われて手からフォークを落とした。
そんなにショック?
そうしてあたしは結局流されるままにケーキセットを頼んで、3人の自称ジムリーダーたちと雑談なんか交えながら楽しいティータイムを過ごしてしまった。
こんなに美味しい紅茶は初めてだった。
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