小説

□5話:不穏
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「まさかまた来るハメになるとはねぇ。」
あたしとホワイトは今朝歩いた森の中を歩いていた。
次の町へ行こうと意気込んでいるところを引き止められて成り行きで夢の跡地へやって来た。
「・・・なぁ。」
「うん?」
「何だか様子がおかしくないか?」
「・・・そう、かな。」
言われてみれば何だか今朝とは違うような。
「何だか、静か、だね。ポケモンの鳴き声も聞こえない。」
「何かあったのか?」
何だかどんどん不安になってきてしまって、無意識に歩くスピードをホワイトに合わせて横に並ぶ。
「・・・?何か、声、聞こえない?」
「ああ。・・・奥、から、だな。行ってみよう。」
「え、行くの!?ちょ、待ってよ!」
こんなトコに置いてかないでよ!
慌てて追いかけるがホワイトは茂みを掻き分けてどんどん先へ行ってしまう。
「もうっ!」
軽く頬をぺちぺち叩いて気合を入れる。行ってやるわよ!行けばいいんでしょう!?
ホワイトの後に続いて草むらを掻き分けて森の奥へ奥へと進む。
と、先に行ってしまったホワイトの背中が見えた。
「あ、ホワイトく・・・」
「離して!離してよお!」
「うるさい!じっとしてろ!」
そこは木々がない開けた場所だった。
「ベル!」
「ブラックちゃん!」
あのおそろいの服。いつぞやのプラズマ団・・・?
何でベルを捕まえてるの・・・?
「何してんのよ!ベルを離しなさい!!」
飛び出そうとしたあたしの腕をホワイトが掴んであたしの前に立つ。
「あんた達が捕まえてるその子は俺たちの友達なんだ。嫌がってるようだし離してやってくれないか。」
有無を言わせない物言いで、その瞳は怜悧な光を放っていた。
プラズマ団のゲーチスとかいう人の演説を聞いていた時と同じような目だった。
「ふん。用事が済んだら直ぐにでも離してやるさ。」
「我々が用があるのはそいつのムンナだ。」
プラズマ団員の視線が足元にいたピンク色の生き物を捕らえた。
「コイツが煙を吐き出したら離してやるよ!」
「!!?」
蹴った。何度も。何度も。
ベルの声が遠く聞こえる。
「こ・・・のッッ!!」
一瞬で、血液が沸騰するかと思った。
気が付いた時にはモンスターボールに手を伸ばして、
「ゲンガー!!シャドーボール!!!」
ホワイトのゲンガーがプラズマ団員を吹き飛ばした。
あたしよりも早くポケモンを出したホワイトはプラズマ団を吹き飛ばすとムンナを抱き上げて、へたりこんでいたベルの腕を掴んで戻ってきた。
「いきなり何をする!」
「・・・それはこっちのセリフだ。」
静かな声だった。ホワイトの怒りが空気を震わせているような錯覚すら感じた。
「どんな理由があろうと、ポケモンを蹴る理由にはならない。
ましてや、そのムンナはベルのポケモンなんだろう。」
ベルはホワイトからムンナを受け取ると涙目でぶんぶんと首を縦に振った。
ベルの腕に抱かれたムンナはぐったりしている。あたしはバッグから傷薬を取り出してムンナに使った。
「我々には我々の理由がある。お前達のような下賤の者には理解できないだろうがな。」
「我々にはそのムンナが必要なのだ。さっさと寄越さないと・・・」
プラズマ団員がミネズミとチョロネコを繰り出した。
「ちょっと!2対1なんて卑怯じゃない!あたしも相手になるわ!」
ホワイトだけに任せたりしない。
あたしだって怒ってるのよ!!
ホワイトはちらっとあたしの方を伺って、何か言おうとしたけど結局何も言わずにプラズマ団に向き合った。
あたしの好きにさせてくれるらしい。
「ミジュマル!行って!」
「ふん!さっきは油断したが、今度はそうはいかないぞ!」
「ついでだ。お前達のポケモンも解放してやる!!」
プラズマ団のミネズミとチョロネコが飛び掛ってきた。
「迎え撃つわよ、ミジュマル、みずでっぽう!!」
「ゲンガー、あくのはどう!!」
ミジュマルの攻撃がチョロネコに当たり、ゲンガーの攻撃がミネズミに当たり、吹き飛んだ。
「何をしている!ミネズミ、たいあたり!」
「チョロネコ、ひっかくだ!」
プラズマ団のポケモンが次々と技を繰り出してくる。
「ゲンガー、あくのはどう!」
「ミジュマルたいあたり!」
吹き飛んだミネズミとコロネコが団員の足元に砂埃を上げながら滑っていった。
「さあ!もうお前らには闘えるポケモンは居ないはずだ!諦めてとっとと帰るんだな!!」
ホワイトは低い声で言い放つと一歩、一歩ゆっくりと団員に近づいていく。
その一歩がやけに重々しくて迫力がある。
あたしは少し怖くなった。
「くそっ!お前達にはこの崇高な思想がわからんのか!」
「撤退だ!」
団員ふたりはポケモンをボールにしまい走り去っていった。
「・・・ふん。何よ。」
あたしは何だか釈然としない。
「はぁ・・・行っちゃったね。」
ベルがほっと息をつくのが聞こえた。
「ムンナは?」
「うん。ブラックちゃんが傷薬をくれたから。」
ベルは目に涙をためて笑った。
「そうか。」
ホワイトも安心したのか微笑んだ。ほんの少し前に見たはずの笑顔が何年も前に見たかのように感じられる。
「でもポケモンセンターに連れて行った方がいいだろう。」
「うん。今から連れて行く。
でも、あの人たち、何だったんだろうね?ポケモンを解放?とか言ってたけど。」
「・・・プラズマ団・・・一体何なのかしら・・・。」
「ああいう連中はどんな理屈をこねてもやってる事は人を苦しめているだけだ。
どんな崇高な思想だろうがいい事のはずがない。」
「・・・そうだね。
うん。じゃあ私はこのコをポケモンセンターに連れて行くね。二人とも、助けてくれてありがとう。」
お互い手を振って別れた。
「・・・さて、俺たちも戻るか。」
「・・・待って待って!マコモさんにムンナを捕まえて来いって言われたじゃない!」
「ああ。そう言えば・・・。」
あたし達はムンナを探し始めた。
ホワイトはもうすっかり元通りだ。
プラズマ団と戦ってるときは別人みたいだった。プラズマ団のことを話すときも言葉の端々にトゲのようなものを感じる。
たしかにあたしも怒ってたけれど、あたしとは何か違うような感じだった。
何か、いやな思い出でもあるのかもしれない。
気にはなるけれど、あたしは言い出すタイミングを掴めなくて結局何も言えなかった。
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