小説

□XX話:uNknown
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「うふふ。少しお待ちになって。」
横から声をかけられた。
振り向くと黒いフードを目深に被ってじゃらじゃらと沢山の装飾品で飾った、いかにも、な怪しい人物が座っていた。
その人物の前にはこれまたいかにも、な大きな水晶玉が安置されている。
「あたくしに貴方を占わせてくださいな。」
うふふ、と占い師が艶っぽく笑う。
フードを目深に被っている所為で顔が見えない。口調から女性だとわかるが、年齢がわからない。
「占い?悪いけど、ボクはそういうの信じてないんだ。」
「まあまあ。占いを本気で信じている人は稀ですわ。
戯言と思って聞いていって下さらない?」
占い師の袖から白い手が水晶玉の前の椅子に誘う。
仕方なくボクは占い師の前の席に腰を下ろした。
その手の様子や、口元の様子。もしかするとこの占い師は自分とあまり歳が変わらないのかもしれない。
「ふふ。今回はあたくしが無理矢理に引き止めたのだからお金は結構よ。」
とのたまうと占い師は水晶玉の乗っている机に頬杖をついて口元の微笑みはそのままに、まじまじとこちらを窺った。
「で、ボクの何を占おうというんだい。」
「占い、というより、本当のところは少し、お話がしたかったのよ。」
「は?」
「貴方、これからとても大きなことをするつもりなのでしょう?」
「・・・」
「本当に貴方はそれが出来る、と信じているの?」
「・・・」
「・・・違うわね。貴方は、それをしなくちゃいけないのかしら?」
「やらなくては、やり遂げなくてはいけないことだよ。
キミが何を知っているのか知らないけれど、ボクはトモダチのために、やり遂げてみせる。」
「ふぅん。・・・そう。」
占い師は一言そう言うと、じっ、とこちらを見つめながら姿勢を正した。
「大変よ。」
「ああ。」
「それでも理想を貫くのね。」
「ああ。」
「なら、実現してみなさい。その理想を。」
「ああ。理想を夢物語で終わらせたりしないよ。ボクは。」
「ふふ・・・。」
「何か可笑しいかい?」
「いいえ。貴方なら実現できるでしょう。その理想を。
理想を現実に出来る人というのは世の中でもほんの一握り。貴方はその一握りの人間のようだもの。」
「・・・?」
「分かるものなのよ。私は占い師なのですもの。
貴方の意志は固い。並大抵ではない覚悟も感じる。そして貴方にはその意志、覚悟に副う実行力もある。
総じて世の中を動かす事ができる者に備わるチカラですわ。
それすなわち王の素質。」
占い師は黒い色の付いた長いつめで水晶玉をコツコツとつつく。
「・・・もういいかい?」
「あら。引き止めて悪かったわね。
なら最後にもうひとつだけ。」
「・・・まだ何かあるのかい?」
ふふふ、と占い師は怪しく笑う。
「貴方の前には強大な壁が現れるわ。
貴方のその高き理想も、
固い意志も、
その一握りの素質でさえも、
壁の前には脆く儚いものになってしまうでしょう。
貴方は貴方でなくなってしまうかもしれないわ。
今、引き返せば、まだ間に合うわよ?」
今、引き返せば、その様な強大な壁に出会うこともなく平穏に暮らせる。
占い師はそう言っている。
それでも
「それでも行くのね。」
「ああ。ボクはボクのやるべきことをやる。
理想を理想で終わらせない。」
そう言ってボクは席を立った。
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