小説

□2話:邂逅
2ページ/2ページ

***
「ん?」
どうしたんだろう。人が大勢集まっている。
あたし達は腹ごしらえを終えてポケモンセンターから出たところだった。
人々のざわめきがここまで伝わってくる。
「どうしたんだろ。」
「行ってみればいいんじゃないか?」
それもそうか、と人々の集まる方に行くことにした。
どういうわけかホワイトも一緒だ。
広場に同じ服を着た集団が綺麗に整列している。なんだろう。
「あ、ブラック!こっち!」
聞き知った声が聞こえた。
短い黒髪に赤いフレームの眼鏡、きれいな水色のジャケットを羽織っている。
「チェレン!」
「久しぶり、というほどじゃないけど。」
「まだ町にいたんだね。」
「ああ。色々と準備していたら時間がかかってね。で、そっちは?」
あたしはホワイトを紹介する。
ふーん、とチェレンはホワイトを観察するように眺めると右手を差し出した。
「よろしく。チェレンだ。そこのブラックとは幼馴染なんだ。」
「よろしく。」
と握手した時、観衆の中から誰か出てきたぞ、という声がした。
何だ何だ、とざわめきが高まる。
すると整列した集団の中から一人の長髪の壮年の男性が出てくるのが見えた。
「何・・・?」
背筋に悪寒が走った。
あの人は他とは違う。何がかは分からない。
でも、違う。
「ワタクシの名前はゲーチス。プラズマ団のゲーチスです。」
低く響く声がざわめいていた観衆を静めた。
「今日皆さんにお話しするのはポケモン解放についてです。」
ポケモン解放?
チェレンも不可解そうに首を傾げた。
ホワイトは見たことも無いような冷たい瞳をしていた。
「我々人間はポケモンと共に暮らしてきました。お互いを求め合い必要とし合うパートナー、そう思っておられる方が多いでしょう。」
・・・何を言ってるの?この人。
当たり前じゃない。ポケモンと人は今まで手と手を取り合って仲良く暮らしてきた。
何の間違いも無い事実でしょう?
「ですが、本当にそうなのでしょうか?
我々人間がそう思い込んでいるだけ・・・
そんな風に考えたことはありませんか?」
「・・・何を言っているんだ?」
チェレンが小さく呟く。
他に集まっていた人たちもそういう風に思っているようだ。
「トレーナーはポケモンに好き勝手命令している・・・
仕事のパートナーとしてもこき使っている・・・
そんな事は無いと誰がはっきりと言い切れるでしょうか。」
いいですか、皆さん、とゆっくり人々の脳に滲み込ませるかのように言い聞かせる。
「ポケモンは人間とは異なり未知の可能性を秘めた生き物なのです。我々が学ぶべき所を数多く持つ存在なのです。
そんなポケモンたちに対しワタクシたち人間がすべき事は何でしょうか。
そうです!ポケモンを解放することです!
そうして人間とポケモンは初めて平等になれるのです!
皆さんポケモンと正しく付き合うためにどうすべきかよく考えてください。
・・・というところでワタクシ、ゲーチスの話を終わらせて頂きます。
ご清聴、感謝します。」
プラズマ団の面々は手際よく撤収作業を終え、去って行った。
「今の演説、何だったんだろうね。」
「ポケモンを解放・・・有り得ないよ。」
集まっていた人々がバラバラと散っていく。
「よくわかんない話だったね。」
「よく分からない、というか理解しがたいね。」
「・・・下らない。」
「ねえ。」
後ろから話しかけられて振り返ると黒いキャップを被ったあたしよりいくらか年上の少年がいた。
優しそうに微笑んでいる。どこか不思議な雰囲気の少年だ。
「キミのポケモン、今、話していたよね。」
「ポケモンが話した?」
あたし達はお互いに顔を見合わせる。
「ああ。話しているよ。そうか、キミたちにも聞こえないんだね。可哀想に。
・・・自己紹介をしていなかったね。ボクほ名前はN」
「僕はチェレン。」
「あたしはブラック。」
「・・・ホワイト。」
ホワイトはこれ見よがしに警戒しているみたいだ。
確かにポケモンが話すなんていう事を言ってる電波さんみたいだけど、初対面の人をそんなに睨んじゃ駄目じゃない?
「僕とブラックはついさっきポケモン図鑑を託されて旅に出たところなんだ。・・・最も僕の最終目標はチャンピオンだけど。」
「へえ、ポケモン図鑑・・・ね。それが。」
とチェレンが手にしたポケモン図鑑をまじまじと眺めている。
「キミ達はその図鑑を埋めるためにポケモン達をモンスターボールに閉じ込めるんだね。」
は?
なんでそーなるの?
「ボクもトレーナーだけど、いつも疑問で仕方ない。ポケモンはそれでシアワセなのかなって。」
凄く、凄く可哀想なモノを見るような目で見られた。さすがにむっとくる。
「そうだね、じゃあキミ達のポケモンの声をもっと聞かせてもらおうか。」
「3人を相手にするつもり?」
「平気だよ。ボクは負けない。」
いいかげんに怒るわよ?
「ツタージャ!」
「ミジュ!」
「行って来い!」
「・・・ふーん?」
なんなのよ!その余裕は!
Nは微笑みながらボールを投げた。

一瞬で勝負は決していた。

目の前にはあたしたちの3匹のポケモンたちが横たわっている。
何が起こったの?
あのチョロネコがやったの?
Nがチョロネコを抱き上げてボールにしまった。
「モンスターボールに閉じ込められている限りポケモンは完全な存在にはなれない。
ボクはポケモンというトモダチのためにセカイを変えなくてはならない。」
そう行って彼は何処かに去って行った。
「何だったんだ・・・アイツ。」
チェレンが呟いた。
分からない。
プラズマ団の演説も、
Nも、
何も分からない。

確かな事実は目の前の現実だけ。
あたしは、弱い。
悔しくてそれ以外のものは見えなかった。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ