小説

□3話:前進
2ページ/2ページ

がさがさと草むらを掻き分けて進む。
普通こういう場面って男の子が先に進むべきだと思うけど、あたしが先に進んで道なき道に道を作りながら進んでいる。
だってこんな方向音痴さんに道案内を頼むワケにはいかないもの。
「ねえ。」
「ん?」
「なんであたしたち一緒に進んでるの?」
「さあ。まあ行くところは一緒なんだしいいんじゃないか?」
それもそうだけど。
・・・ん?
「わあっ!」
こけた。盛大に。
「何やってるんだ。」
「だって、何か此処にあって・・・」
がうがうがう!
「ヨーテリー!?」
怒ってる・・・よね。
あたしはヨーテリーに躓いたみたいだ。
今にも飛び掛ってきそうな気迫。
「ご、ごめんね!あなたがいたの、知らなかったの!許して・・・くれない?」
がう!許してくれないみたいだ。
「よーし、だったら・・・・」
ミジュマル、がんばって!
「ミジュマル、たいあたり!」
「あのヨーテリー速いぞ!?」
ヨーテリーはミジュマルのたいあたりを難なくかわしてこっちへ向かってきた。
へ?こっち!?
「き、きゃああああっ!?」
思わず手を前に向けた。
捕獲用のモンスターボールを持った手を。
ヨーテリーの鼻面がモンスターボールの開閉ボタンに触れた。
「おお・・・?」
「へ・・・?」
カチッ、という音で我に返った。
ミジュマルもホワイトもこっちを向いてあっけに取られたような、中途半端に口を開いた状態で静止していた。
もちろんあたしも同じような状態で。
「つ、捕まえちゃった・・・。」
「・・・こんなこともあるんだな。」
ホントに捕まえちゃった。
ヨーテリー、ゲットしちゃった。
「や、やったああああああああ!!!!!?」
初ゲット!ヨーテリー捕まえちゃった!
遅れて感動がやってきた。
ミジュマルもだんだん状況がわかってきたみたい。仲間が増えたんだよ!
「出てきて、ヨーテリー!」
嬉しくて嬉しくて新しい仲間に早く挨拶がしたくて、

がぶっ!

さっきまでヨーテリーが怒ってたことも忘れてボールから出したら思いっきり手を噛まれた。
ホワイトがやれやれと肩をすくめた。
ミジュマルが心配そうに駆け寄ってきた。
あたしは手が痛いからか感動からか涙が止まらなかった。


で、このヨーテリー、あまり過ぎたことには拘らないスッキリサッパリした性格だったみたいで、あたしの手を思いっきりひと噛みしたら気が済んだみたいでもうあたしを睨んだり吠えたりはしなくなった。
抱き上げてなでなでしても怒るどころか気持ちよさそうにすらしている。
「よかったな。ネチネチした性格じゃなくて。」
ホワイトが意地の悪い笑顔をする。
「もう!」
でも、ホントに良かった、と心の中で呟いたのはホワイトには秘密だ。
「あ、見えてきた!」
町の建物や人々の賑わいが近づいてくる。
「・・・こんなに早く次の町に着いたのは初めてだ・・・。」
ホワイトが感慨深げに町を見つめる。
その眼には何だか涙が滲んでいたような?
あんたは隣の町に辿り着くまでどれだけかかるのよ!
「さあ、行くわよ!もう日も暮れてきたし取り敢えずポケモンセンターに・・・」
「待たれよ!」
しわがれた、枯れた大声で止められた。
「・・・誰だ?」
「私は旅の占い師。」
ひっひっひっ、と怪しさ満点の笑みを浮かべながら丈の長いフード付きの衣装を引き摺るようにしてあたしの前に立った。
占い師って言うより魔女って言ったほうがしっくりくる。
「これをもってゆくがいい。お主には必要になるじゃろう。」
ひーっひっひっ、と高笑いを残して占い師は去って行った。
「・・・何だったんだ?何貰ったんだ?」
流石のホワイトも口元が引きつっている。
「・・・モンスターボール。たしかにあたしはトレーナーだから必要だとは思うけど。」
「中にポケモンが入ってるんじゃないか?」
「あ、そうか。」
開閉ボタンを押すと中からポケモンが現れた。
それは出てきた途端、あふ、と大口を開けて欠伸をした。
「赤い、お猿さん・・・?」
「・・・バオップ、だな。」
バオップはあたしを見つめるとゆっくり、のっそり脚をつたって背中を上って頭の上が落ち着いたのかそこで寝息を立て始めた。
「舐められてるんじゃないのか?」
頭の上で眠っているバオップをボールにしまってからホワイトの頭を叩いた。
「何だったのかな、あの占い師さん。あたしにこの子を渡したりなんかして。」
「親切な人もいるんだってことにして貰っておけよ。」
うーん・・・いいのかなあ?
「あ。」
「何よ。」
「ちょっと、その、ジムまで案内してくれねえ?」
「・・・何であたしが。」
「それは俺だけだとジムまで何時間かかるか・・・いや、やっぱいい。俺一人で行ける。
先にポケモンセンター行っとけよ。」
「・・・・・・」
「何だよ。」
「いいわよ。送っていってあげるわよ。」
もう直ぐ日が沈むってのに・・・。
暗くなってから町中をジムを探して彷徨うホワイトを想像したら何だか可哀想な気持ちになってしまった。
そんな罪悪感は感じたくないじゃない。
でも、あたしもジムなんて行ったこと無いんだから、迷っても知らないからね。

無事ホワイトをジムまで送り届けたあたしはポケモンセンターの宿泊施設にいた。
ポケモンをボールから出して遊ばせている。
「ホワイトくん、大丈夫かな。」
帰りは道が分からなくなったら誰かに聞いてね、とは言ったけれど。
そもそもホワイトは今手持ちのポケモンはゲンガーだけなのではなかっただろうか。そんな状態でジム戦というものは出来るものなのだろうか。
だんだん心配と不安が湧き上がってくる。
大丈夫かな。
もうあたりはすっかり暗くなって星が見えるようになってきている。
「やっぱり迎えに行こうかな・・・。」
ヨーテリーとバオップをボールにしまってミジュマルを抱き上げた時だった。
窓の外からかすかな光が差し込んだ。
「何・・・?」
不思議な光景だった。
桃色のポケモンたちが不思議な煙を身にまとってふわりふわりと漂っている。
1匹だけではないようだ。何匹かいる。
そのポケモンたちは町の端、夢の跡地とかいうところから来ているみたいだった。
「えーと、ポケモン図鑑ポケモン図鑑っと。」
へえ、ムンナとムシャーナ。
ポケモンっていろんな種類があるんだな。
すると1匹のムンナがこちらに向かってきた。よく見ると人を連れているみたいだ。
ミジュマルはいち早く気付いたようであたしの方を見て目で訴えている。
「あ!ホワイトくん!」
誰かに聞いてとは言ったけれど、ポケモンに聞いて来るなんて思ってなかった!
あたしは急いでポケモンセンターを飛び出した。
「ホワイトくん!!」
「あ、ブラック。どうだ、俺はちゃんとポケモンセンターに着いたぜ。」
い、いや、どうだ、じゃなくて。
「何でポケモンに連れられてきてるのよ!」
「いや、成り行き?」
話を聞くとあたしの予想通りやっぱり迷っていたらしい。誰かに道を聞こうと思ったがもう人通りも無くて困っている所にこのムンナがやってきたらしい。
「で、もし知ってたらポケモンセンターまで案内してくれないか、と言ったら連れて来てくれたんだ。」
ムンナがコクコクと頭を振る。
「はぁ。親切なコで良かったわね。」
「全くだ。」
ムンナがホワイトの肩をとんとんと叩いた。
「ん?もう行くのか?」
「何言ってるのか分かるの!?」
「何となくだ。」
見るとその辺に居たムンナやムシャーナも少しずつ姿を消しているようだった。
最初見たときより数が減っている。
「そうか。ここまで送ってくれてありがとう。」
ムンナは嬉しそうにして小さな手を振って去って行った。
「あそこから夜になると出てくるんだな。」
「夢の跡地って言うみたいよ。」
「・・・へえ。明日行ってみるかな。ブラックはジムか?」
「うん。そうだ!どうだったの?ジム戦!」
ホワイトは少しの間あたしをじっと見つめて何かを考えているようだった。
「・・・秘密だ。」
「えー!?何よ、教えてくれてもいいでしょー!?」
その後ホワイトはどれだけ問い詰めても秘密の一点張りで何も教えてくれなかった。
ジムのことも行けば分かるとしか言ってくれなかった。
あたしはジム戦なんて初めてなのよ!気になるじゃない!教えてくれたっていいじゃない!

けち!
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ