小説

□4話:試合
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「ぷはー。」
あたしはケーキと紅茶をしっかり頂いて、半分くらい何をしにここまで来たのか忘れているような有様だった。
「どうだった?ウチのケーキと紅茶は。」
「美味しかったです!」
つい頬が緩んで笑みがこぼれる。
それほどまでに美味しかったのだから仕方ない。
「それはよかった。」
「では。」
同じ席に着いていた2人が立ち上がった。
「ジム戦を始めましょうか。」
「さあ、こちらへどうぞ。」
3人は喫茶店の奥へと向かっていく。
「・・・なんでホワイトくんもついてくるのよ。」
「いいだろ。別に。」
いいけどさ。別に・・・。
「さ、お二人。着きましたよ。」
大きな丈夫そうな扉の前で3人のウエイターさんが横に並んで立つ。
「サンヨウジムへようこそ。本日は僕、デントがブラックさんのお相手をします。
どうぞよろしく。」
「こ、こちらこそ!」
緑色の髪の温和そうなウエイターさんが相手みたいだ。
「用意はいいか?」
「・・・はい!」
扉が開かれる。
そこには闘技場があった。
喫茶店の奥にこんな広い場所があったなんて・・・!
「これよりサンヨウジム、ジムリーダーデントとカノコタウンのブラックによるジム戦を始めます!
審判は私、コーンが務めさせていただきます!」
「あれ?ポッドは見てるだけ?」
ホワイトが首を捻る。
「ばっか、俺には応援っつー大事な役割があるだろ!」
がんばれーブラックちゃーん!と言う声援が聞こえる。・・・あたしの応援なの?
こほん、とコーンが咳払いをした。
「ジムリーダー、チャレンジャー共に使用ポケモンは2体。入れ替えはチャレンジャーのみ可能とします。
では・・・始め!」
「じゃあ始めようか!」
デントの放ったボールからヨーテリーが飛び出した。
「よーし、じゃああたしは・・・」
ミジュマル!頑張って!

「お、ミジュマル。やっぱりな。」
「何が?」
「俺たちはチャレンジャーが使うポケモンのタイプによって対応する人間が違うんだ。
チャレンジャーが草タイプなら俺が対応するし、
炎タイプならコーン、
水タイプならデントがってな感じでな。」
「ふーん?」
「で、俺たちはさっきのケーキサービスの時にチャレンジャーと喋って、どんなポケモンを持ってるのか探るんだ。」
「・・・そんな事聞いてなかっただろ?」
「それとなく分かるようになってるんだよ。」
「で、ブラックが水タイプのポケモンを持ってるって分かったんだな。」
「そうそう。お、ヨーテリーとの勝負が終わったみたいだぞ。」

「なかなかやるね。」
デントが瀕死になったヨーテリーをボールに戻して不敵に笑う。
「次はこいつが相手だよ!」
現れたポケモンに図鑑を向ける。
「ヤナップ!」
緑色のお猿さん!あれ?何か似たようなポケモン見たことがあるような?
「ミジュマル、まだいける!?」
ミジュマルは少し息が上がっているが、まだまだ大丈夫と言うかのように返事をした。
「よーし、ミジュマル、みずでっぽう!」
やった!当たった!
「あ、あれ?」
「草タイプのヤナップには水タイプの技は効果はいまひとつだよ!」
ヤナップはみずでっぽうの直撃を受けても平気そうだ。
「じゃあこっちの番だ。ヤナップ、つるのムチ!」
「ああっ!」
「・・・おお。急所に当たったな。」
「ブラックちゃんも運が悪いな。」
「ミジュ!ミジュ大丈夫!?」
慌てて駆け寄るがミジュマルはめを回したままだ。
「・・・お疲れ様。」
ミジュマルをボールに戻して2つ目のボールを手に取る。
「よし!じゃああたしの2体目は・・・!」
草タイプのヤナップに勝つためには、やっぱり炎タイプよね!
「ブラックちゃんいいポケモンもってるじゃねえの。」
ひゅう、とポッドが口笛を吹く。
「さあ、バオップ、頑張って!」
バオップはちらっとこっちを伺ってからヤナップのほうを見たが、その表情は一向に変わらない。やる気があるのやら無いのやら。
いやいやいやいや、表に出ないだけでちゃんとやる気になってる!と思うことにした。
「バオップ、したでなめる攻撃!」
よし!当たった!!
「ブラック!ヤナップは痺れて動けないみたいだぞ!」
「分かってる!バオップ、やきつくす攻撃!!」
バオップの放った炎攻撃がヤナップに直撃した。
「やった!」
「ヤナップ!大丈夫か!」
ヤナップは後方に宙返りして距離を取った。
まだ大丈夫そうだ。
「ヤナップ、つるのムチ!」
「耐えて、バオップ!!」

「・・・いい勝負じゃねえか、ブラックちゃん。」
「・・・まあな。」

「バオップ!もう一発やきつくす攻撃!」
「あっ、ヤナップ!」
吹き飛ばされたヤナップは立ち上がろうとして、
ぐしゃ、と崩れた。
「・・・ヤナップ戦闘不能。この勝負、ブラックの勝ち!」
「やっ・・・たあっ!!!」
バオップの元へ駆け寄る。
抱き上げるとバオップは弱々しく微笑んだ。
頑張ってくれたんだね。
「よくやった!」
後ろから駆け寄って来たホワイトががしがしとあたしの頭を荒っぽく撫でた。
満面の笑み。自分のことみたいに嬉しがってくれている。
「ありがとう!」
そんな風にも笑えるんだ。
ちょっと吃驚。
新しいものを見つけたみたいで嬉しい気持ちになる。
「おめでとうブラックさん。」
「ありがとう、デントさん!」
「これはトライバッジ。このジムで勝利した証です。」
「これが・・・!」
光を反射してキラキラと輝くそれは本当にキレイだ。
「イッシュにはあと7つのジムがありますから、挑戦してみてくださいね。」
「はいっ!がんばります!」
「サンヨウシティから一番近いジムのある町はシッポウシティですね。」
「迷うような道じゃないし、そう遠い場所でもないから大丈夫だな。」
「途中に地下水脈の穴なんかもありますから時間があるのなら行ってみればどうですか?」
「地下水脈の穴・・・かぁ。行ってみようかな。ホワイトくんはどう?」
「ん。別に急ぐ旅じゃないからな。行ってみるか。」
「決定!じゃ、地下水脈の穴、行ってみよう!」
次の進路は地下水脈の穴に決まった。
「じゃあお気をつけて!」
「はい!じゃあまた!」
大きく手を振ってジムを出る。
あたしはカノコから出てきたときから何か変わっただろうか。
ベルのように変われただろうか。
全然目に見えなくても、少しずつ、変わっていればいいなと思う。

そういえば、
「ホワイトくんってジム戦結局どうだったの?」
「・・・もういいか。」
とバッグの中を漁ってバッジケースを取り出した。
「この通り。」
そこにはサンヨウのトライバッジが輝いていた。
「何で隠してたのよ。」
「・・・プレッシャーになるかと思って。」
「そんなことないのに。」
「・・・ブラックって普段強気そうなのに、妙に気弱なトコあるみたいだからな・・・。」
むう、と頬を膨らませて抗議するが、自分でもそう言う面がある事を自覚しているのであまり突っかかれない。
「もういいっ!早く行きましょ!」
こういう時は強引に話を変えてしまうに限る。
「あ〜!待って待って〜!」
後ろから声を掛けられた。前にもこんな風に呼び止められたなあ。
長い黒髪の女の人が必死に走ってくる。
「あなた、ブラック、さん?」
息も切れ切れ。膝に手を置いて呼吸を整えてから顔を上げた。
長い黒髪、お花の髪飾り、眼鏡に丈の長い白衣。
「アタシはマコモ。
あなたがこの町に来たらこれを渡して欲しいってアララギ博士に言われてたのよ。」
はいどうぞ、と何かの機械(?)を渡された。
「えっと、これ・・・は?」
「それは秘伝マシン!中にはいあいぎりが入ってるわ!これからの冒険に役立てて頂戴って。」
「はあ。ありがとうございます。それじゃあ。」
「待って待って!・・・あなた達は先を急ぐのかしら?」
「え?いや・・・」
「だったら!アタシのお願いを聞いて欲しいんだけどな〜。」
両手を合わせて上目遣いで『お願い』のポーズをとる。
「何、ですか・・・?」
ホワイトはほんの少し引き気味、というか完全に腰が引けた状態で尋ねた。
「そこの夢の跡地でムンナを捕まえてきてほしいの!」
あたしたちはまだこの町から出れないらしい。
目の前にはお願いお願い、と子供っぽく『お願い』をしている妙齢の女性が。
さすがにこの人を無視して先に進むのは後味が悪い。
まあ、急いでるわけじゃないし・・・。
あたしとホワイトは目を合わせると、同時にため息をついた。
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