小説

□5話:不穏
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「ほんっとーに!ありがとう!」
あたし達はやっとの思いで捕まえたムンナをマコモに引き渡して彼女の研究室を去った。
「はー!やっと進めるね。」
「そうだな。」
ホワイトも少々疲れた顔をしている。
「マコモさん、あのムンナ可愛がってくれるのかな。」
「・・・大丈夫だろ。あの人は。」
そうだね。
あたし達がムンナを渡した時にみせた彼女の笑顔は本当に嬉しそうだった。
「世の中の人がみーんな、あんな風にポケモンを大事にしてくれる人ならいいのにね。」
「・・・ああ。」
少し振り返って、微笑んだ。
この人は怒ってるよりもやっぱりこっちの方が似合ってる。
「何?」
「えっ?ううん。何でもないっ!」
無意識にずっとホワイトを見つめていたみたいだ。目が合って気まずい。
何だか恥ずかしくて顔が上気するのを感じた。
「さ!行こう行こう!」
「?おお。」



ピチョ・・・・ン。
水の滴る音が暗い洞窟内に響いた。
「っひ!」
そんな水滴の一つがむき出しの肩に当たって思わず悲鳴が出る。
「進めそうに無いな。」
ホワイトが残念そうに此方を振り返った。
確かに先は池のようになっていて進めそうにもない。
「奥に進めそうな道は見えるのにね。」
こういうところは水タイプのポケモンの『なみのり』と言う技でわたるのがセオリーだけど、ミジュマルに乗って渡るのは、まあ、無理だろう。
「仕方ないけど、引き返して次の町へ向かおっか。」
「うん。そうだな。」
と踏む出した時、ホワイトの足元で砂煙が吹き上がった。
「え!?な、何?どうしたの!?」
「・・・野生のポケモンか!」
現れたポケモンに図鑑を向ける。
「モグリュー!」
「地面タイプか!丁度いい!ゲンガーだけじゃこの先不安だし、ゲットしてやる!」
「頑張れホワイトくん!」
「俺の応援してくれるのはいいんだけど、そっちの相手してやってくれねえ?」
「へ?あ、きゃああ!?」
真後ろに居たポケモンに図鑑を向ける。
コロモリ。こうもりポケモン。
「よーし。あたしもコロモリ捕まえるわ!」
ミジュマル、頑張って!

「ホワイトくーん!あたし、コロモリ捕まえたよ!」
満面の笑みで駆け寄る。
「よかったな。俺も今モグリュー捕まえたところだ。」
とモンスターボールを掲げて二人して笑った。
「さあ!次の町へ行こっか!」
「ああ!行こう!」
心なしか二人とも嬉しそうな声色になっていた。仲間が増えると問答無用で嬉しい気持ちになる。
「待ちなさぁぁいっ!」
洞窟内に大声が轟いた。
「くそっ!まだ追ってくるのか!?」
「待てっ!ベルは此処でその子と待っててくれ。」
「・・・うん!」
何人かの声が響く。
「なあブラック。この声って・・・」
「うん。聞いたことあるね。」
バタバタと走る音が響いて、先ほどまであんなに静かだった洞窟が騒がしくなった。
しかも、この足音と声は此方に近づいてきているようだ。
「あッ!」
「あれ、その服。」
まさにバッタリ。出会ったその男たちの服はプラズマ団の服だった。
「く、くそ!お前らも邪魔をするのか!?」
男は半ばパニックになっているようだ。
男のミネズミがこちらに飛び掛ってきた。
「っ!」
ホワイトがゲンガーを繰り出しミネズミに対応する。
「な・・・おい!こっちにも人がいるぞ!?」
「くそ!ただでさえ追いかけられてるところだってのに・・・!」
あとからプラズマ団の男が2人走ってきた。
「待てっ!」
と、その後ろから見知った黒髪の少年が飛び込んできた。
「ブラック!!何でこんなところに・・・いや、今はいい。それより協力してくれ。ダブルバトルだ!」
「う、うん!」
何が何だかよく分からないけど、この間のベルのムンナのこともあるし、
このプラズマ団ってのがいいヤツらじゃないことは確か。だったらチェレンに協力するしかない。
「いけ!ヨーテリー!」
「ツタージャ!」
プラズマ団の団員がミネズミを繰り出す。
あれ?なんだかこのミネズミたち、疲れてる?
「逃げ切れると思うなよ!ツタージャ、つるのムチ!!」
「ヨーテリー、かみつく攻撃!」
「「ミネズミ!!」」
プラズマ団のミネズミは2体とも1撃で沈んだ。
確かに疲れてるようには見えたけど、なんで?
「さあ!あの子からとったポケモンを返して貰おうか!」
「・・・どういうことだ。」
ホワイトのバトルも終わったようで、険しい表情でアタシの横に立った。
その険のある双眸にチェレンも驚いたらしい。少々戸惑った空気が伝わってくる。
「あ、ああ。そいつらは保育園の女の子からポケモンを無理矢理奪って行ったんだ。
たまたま僕とベルが隣の育て屋に居てね。
ここまで追いかけてきたんだ。」
「保育園の女の子からポケモンを奪う!?なにそれ!」
お、大人気なくない!?それは。
「う、うるさい!」
「あのような子供がポケモンを使うなど・・・」
「解放するのがポケモンのためだ!」
「・・・黙れ。」
口々に反論していたプラズマ団員だが、ホワイトの一声でぐ、と押し黙った。
「で、僕とベルはその子と一緒にここまで追いかけてきたんだよ。」
途中で一戦交えてきたんだよ、とチェレンはあたしに言った。
それでさっきのミネズミたちは疲れてたのね。
「さて。さっさとあの子のポケモンを渡して貰おうか。」
くっ、とプラズマ団は苦々しい表情をすると、モンスターボールを地面に置いて、
チェレンを突き飛ばして脱兎のごとく走り去っていった。
「いっ・・・てぇ。」
「大丈夫?」
「逃げられちゃったな・・・。」
「警察に突き出してやろうと思ってたのに!」
遠くからきゃあ、と聞き知った悲鳴が聞こえた。
「!ベル!!」
「行きましょ!」
あたしはモンスターボールを拾って、チェレンを助け起こして入り口の方へ走る。
入り口の光が見えてきた。
「ベル!大丈夫!?」
「いっ、たああぁぁぁ・・・。」
「おねえちゃんだいじょうぶ?」
ベルは座り込んだ状態でお尻を押さえていた。
側には小さい女の子が心配そうにしゃがんでいる。
「あれ?ブラックちゃんにホワイトくん?」
「大丈夫か?悲鳴が聞こえたけど・・・」
「あ、うん。平気だよ。突き飛ばされてこけちゃっただけだから。それより、チェレン・・・」
「ああ。取り返したよ。」
「はい。どうぞ。」
あたしはベルの側にいた女の子に先ほど取り返したモンスターボールを渡してあげた。
女の子は大きい両目にいっぱいに涙を溜めて、大事そうにボールを受け取るとぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう。おにいちゃん、おねえちゃん!」
そんなに真っ直ぐに感謝されると何だかくすぐったくてつい目を背けた。
そむけた視線の先に居たホワイトとチェレンも同じように視線を逸らしているのを見て何だか可笑しくて笑みが溢れた。

ベルは女の子と手を繋いで、保育園に去って行った。送り届けてから出発する、と手を振った。
「ベルにも聞いたけど、あのプラズマ団って奴ら、とんでもない連中みたいだな。
君達も気を付けて。」
チェレンは神妙な顔でそう告げてから足早に去って行った。
「ホントにとんでもないヤツらね。あのプラズマ団って。」
「あんな小さな女の子のポケモンを奪うなんてな。」
嫌そうに言う。
プラズマ団。ポケモン解放って何なの。
ワケが分からない。
あたしたちはもやもやしたものを抱えながら次の町へ向かうために歩き出した。
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