「雲雀ー!極限予行演習に出ろ!」
「うるさい、暑い、寄るな」
「ぐあっ。ダメだ!俺は極限にお前を参加させるぞ!」
卒業式を明後日に控えた放課後。雲雀や了平たち六年生は、卒業式予行演習のため、体育館へ集合する事になっていた。しかし雲雀は一人、ランドセルを手に取り教室を出た。雲雀が勝手な行動を取るのは今に始まった事ではないし、それを止めるのは、いつも了平の役目だった。
「待て!演習もせず卒業式に出たら、失敗して恥ずかしいのは極限に貴様だぞ!」
「大丈夫、卒業式も出ないから」
「何ぃ?!ならば余計に、俺はお前を卒業式に参加させるぞ!」
なおも自分の腕を掴む了平を、雲雀はどこから取り出したのか、金属の棒を握り、軽く殴った。
「グエッ」
了平は頭を抑え、尻餅をついた。雲雀は了平を見下ろして
「卒業式に興味はない」
と言った。その言葉の冷たさに、思わず了平は言葉に詰まる。
雲雀は少し変わった。その契機が何だったのか、了平は分かっていたから、自分の不甲斐なさに唇を噛んだ。雲雀は了平に背を向け、その場を立ち去ろうとした。
「待たんか!」
了平は叫びながら思い出す。
あれは、ほんの数ヶ月前の事だ。


雲雀と了平は、二人で下校していた。とは言っても、帰ろうとした雲雀に無理矢理了平がへばりついていただけだが。いつもは一緒にへばりついているはずの山本が、今日はどういうわけか姿を見せなかった。
二人が了平の家の近くに差し掛かった所で、
「先輩!ヒバリ!」
と叫びながら、山本が血相を変えて走ってきた。二人はすぐに何かあったな、と考えた。果たしてその通りで、山本は息も切れ切れに、
「ツナと、京子が、」
とだけ言った。よく見ると山本の顔は誰かに殴られたのか頬が赤くなり、切り傷もあった。
山本は説明する時間も惜しいのか、来た道を駆け出した。雲雀と了平も、後に続く。その先の光景に、二人は息を飲んだ。
人通りのない、細い路地だった。中、高生くらいの三人の男子と、綱吉と京子が見えた。少年たちの二人が、綱吉を囲んで殴っていた。それを泣きながら、やめて、と止めようとする京子を、残りの一人が後ろからがっしり羽交い締めにしていた。綱吉は体を丸くかがめて、殴られるのに耐えていた。
雲雀はまず始めに、隣に立っていた了平から、恐ろしい位の殺気が放たれるのを感じた。それから、自分の中に抑えようのない、重くどす黒い怒りが溢れてくるのを感じた。



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