one piece短編集

□夏の怪談話
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「それで…その男が、ドアを開けると…」

『イヤァァアアアア!!!!』

「「「うるせぇ!!」」」

『ごめんなさい…!!いやでも…!!』

「ったく、これからってときに…」

『だって怖いじゃん!!』


ただいまキッド海賊団にて
夏の定番、怪談話の真っ最中

私は怖いものが大の苦手だ

だけど、夏の風物詩をぜひとも経験したいと思い、参加したのだ

私を含め、仲の良い下っ端4人でロウソクを囲み、恐さを演出している


そして1人目が話し始め、怖いもの好きには堪らないだろう一番の盛り上がりを私が台無しにしてしまった

「じゃあなんで参加したんだよ!!」

『せっかくだから!!』

「馬鹿だな」

『い、いいじゃん別に!!で!?そのあとどうなったの!?聞いてやろうじゃない!!』

こうなったらヤケクソだ
どんな怖いものでもドンと来い

「分かったよ…、
……男がドアを開けると…」


―バンッ!!!!
「ウォオオオオオオオオ!!!!」



「「「『ぎゃぁああああああああ!!?!?!!出たぁぁああああ!!?!』」」」

怖い話をしてたら本物が出るっていうのは本当なのか!?ってことは私達は今からまとめて喰われるの!?いやだまだ死にたくない!!悪霊退散!!塩持ってこい!!塩!!


「…フハハハハハ!!!テメェらビビり過ぎだろ!!」


「「「お頭ぁ!!?」」」
『船長ぉ!?』



怪談話に耳を傾けた瞬間

私の後ろの扉が勢い良く開かれ
それと同時に唸り声が聞こえた


あまりのタイミングの良さに私達の叫び声が響いたのは言うまでもない

そのあと笑い声が聞こえてきて
事の犯人が我らが船長ということが判明した

切実にお化けじゃなくて良かったと思った

びっくりしすぎて目に涙が溜まっている


『びっくりしたじゃないですか!!』

「じゃあびっくりしなきゃいいだろうが」

『そんな無茶な!!』

だったら自分でやってみせてほしいものだと思ったがこの人ならビビるどころか返り討ちにしそうで怖い

「てかキッドの頭、聞いてたんですか?」

「まぁな、いいもん見れたぜ」


「あ、せっかくですんで、頭もどうっすか?怪談話」

「いや、いい。テメェらでやっとけ」

…ん?

私は見たぞ、船長が目を逸らしたのを…。これはもしや…


『いいじゃないですか!船長も一緒に…』

「いいって言ってんだろ!!」


…このムキになる感じ…

私の予想はほぼ確定に近いと確信した

これはやるしかない



『……あ!船長!!後ろ後ろぉぉお!!』

「うおぁあッ!?」


…ビンゴ


「頭って案外…」

『怖がりなんですね!!』

「うるせぇ!!」


はははッとみんなで和やかに笑っていると

船長の肩にゆらりと手が置かれた

どうやら本人はまだ気づいていないらしい

私達はそれに気づいて一気に静まり返る

その様子を察した船長が、なんだよと声をかけた


「お、おおおぉぉお頭…」

「あ?」

「あ、あの…」

「なんだ」

「か、肩に…」

「は?肩に何が……」

『手がぁぁあああああ!!?!』

「「「「うぁぁあああああ!!??!?」」」」

私の叫びを合図に皆も一斉に叫んだ

肩を見た船長も一緒になって叫んだ


『あぁぁあ悪霊退散!!悪霊退散!!南無阿弥陀仏!!私食べても美味しくないからぁあああ!!』

もう頭の中はパニック状態

みんなも部屋の隅に寄ってガタガタと震えている

船長はあまりのショックに気を失って倒れた

船長の立っていた後ろに髪の長い人影

その人影はどんどん近づいて来る


『い、いやぁぁあああ!!!来ないでぇぇええ!!』


恐怖に怯え、その場にしゃがみ込み、ぎゅっと目を閉じた

すると足音がすぐ近くまで来てピタリと止まった

ガタガタと震えていると
聞き覚えのある声が降ってきた


「ほんとに面白いな、お前達は」


この声は…!!

『キラーさん!!』
「「「キラー!!」」」


私の先程までの恐怖はどこかへ吹き飛び
代わりに大きな安心感を得た

どうやらそれは皆も同じようだった


…1人を除いては…


「キッドが幽霊嫌いとはな」

『ほんとですよ!!船員を差し置いて一人気絶しちゃうんですから!!』

「キノも気絶したいのか」

『いや、遠慮しときます』

「だろうな」


「き、今日のところはお開きにしようぜ…」

「おう…」

「キラーお前…まじで怖かった」

「俺もうトイレいけねぇ…」

それはないだろう、などと私達はガヤガヤしながら部屋を後にしたのだった






次の日に船長が目を覚ましたとき、何やらあの時の事を訴えていたが

私達は正体を知っているので笑って流し、下っ端達による夏の怪談話は幕を閉じた




「だからあの時…」

「キッド、お前の肩に手を置いたのは俺だ」

「それくらい分かってらぁ!!」

「は?」

「その隣にいた髪の長いあの女は誰なんだよ!!?」

「…………」





end

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