鬼神さまと荒神さま
□鬼神VS英雄〜伝説ってそんなもの〜
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叉羅があの世に来て3年の月日が経った。
なんやかんやで地獄に馴染み、今は亡者の反乱の牽制班兼、閻魔局第一補佐官の秘書をやっていた。
いや、補佐官自体が秘書なんじゃ・・・と疑問に思ったが、強引な鬼灯のごり押しで無理やり付き合わされていた。
「針山は特に問題なし。不喜処地獄はどうですか?」
「従業員不足ですね。」
「他の部署から、スカウトできればいいのだけど。せめて、派遣とかでも・・・。」
「ああ、そういう手もありますね。採用しときましょう。流石、(私の)叉羅さん。」
「聞こえる様に言うなら、意味のない括弧とじは止めてくんない。」
鬼灯のさり気ないアピールを顔色を変えることなく躱す叉羅。2人のやり取りに、獄卒は居づらい思いをしている。
其処へ、子鬼の獄卒唐瓜が此方に向かって走ってきた。
「鬼灯様ぁ、叉羅様ぁ!天国の桃源郷から、人材貸し出しの件が・・・。」
「天国の世話までしていられませんよ。」
「完全に管轄外でしょう、それ。」
呆れながらも、鬼灯は唐瓜の持ってきた書類に目を通した。
「どうせ、閻魔大王(あのアホ)が面倒だからって私に相談しろとでも言ったんでしょう。」
「今、さらっとアホって言った?」
ナチュラルに上司を貶す鬼灯に獄卒2人は冷や汗を流す。
「ホントに、あの髭モジャは・・毟ったろうか、マジで・・・(ポソ)」
((本気の目だ・・・っっ!!))
疲れているせいか、目がイッちゃってる叉羅を鬼灯は優しく撫でて宥めた。
「・・・桃源郷ですか。まあ、よくも罪人もいないのにヌケヌケと・・・。ゆったりたっぷりのんびりしてるくせに・・・。」
・・・旅ゆけば楽しい・・・ホテル三日月・・・・。
・・・・・・・・。
「叉羅さん、今度二人っきりでゆったり、たっぷり」
「のんびりしてる暇なんてないでしょ、このクソ忙しい時に。まだ書類のスカイツリーが3つも建ってるよ。」
「チ!アホが何でもかんでも押し付けてくるせいで、叉羅さんとのイチャイチャタイムが取れないじゃないですか!」
「ヒマでもイチャイチャしたことなんかありません。で?天国への人材って?何の?」
「ええと・・・、桃農家への人材貸し出し・・・。」
「桃って、ああ仙桃?」
「ええ。ですが私は以前にも言ったように桃の木をこれ以上増やすことに反対していた筈です。
大量に作って万能薬を増やせば堕落してしまう。少ないから丁度良いんです。」
「ですが、桃源郷は今や天国の最大観光スポットですし・・・、重要文化財として景観の維持を・・・。」
「ああ・・。まあ確かに手入れは必要ですが・・・。」
「桃源郷は天国の代名詞みたいなものだからね。でも、人材か・・・。こっちも余裕がないのよね。」
「ええ。」
ううむと考え込む中、更に獄卒がやってきた。唐瓜の同期の茄子だ。
「鬼灯さまァァァァァァ!!!」
「おや。」
「あら、茄子ちゃん。」
「あ、叉羅さま!こんにちわ!」
「はい、こんにちわ。」
茄子は息を整えて鬼灯に顔を向ける。
「どうしました?」
「スミマセン!ちょっと、トラブルが・・・。」
「トラブル?」
首をコテンと傾げて聞く、叉羅。
其れを見て、きゅんとトキメク鬼灯様。
「桃太郎とかいうのが来て・・・!!」
「桃が来た?要りません。」
「桃より、ラ・フランスが食べたい。」
「いや・・・、別にお中元とかじゃないんですけど。そして叉羅様もさり気なく催促しないでください。」
兎に角、来てください!と茄子は鬼灯の手を掴んだ。
彼の勢いにポカンとした叉羅だったが、急にグンっと引っ張られる感覚を覚える。
見ると、いつの間にか鬼灯が掴まれた手とは逆の手で叉羅の手を握りしめていた。
「ちょ!離して!!危ないでしょ!?数珠つなぎはバランスとりにくいんだから!」
「嫌です!絶対、貴女の手は離しません!私の魂ごと離してしまう気がするから!」
「ICOか!!」
生贄にされた角の生えた少年と、白い少女の名作のゲームが叉羅の頭を過った。
っつうか、なんで鬼灯は知ってるんだ。そのキャッチフレーズ・・・。
小さくても、やはり鬼。
鬼灯+叉羅の手をグイグイと引っ張る強さは半端ない。
「桃太郎って、あの桃太郎ですか?」
「そうです!」
「実在してたんだね。本物見るの楽しみかも。」
心なしか嬉しそうな叉羅に鬼灯は不機嫌そうな顔をする。
途中、何故か地獄には不釣り合いな、中世ヨーロッパで有名な拷問道具『鉄の乙女』が置かれ、罪人が呵責されていた。
「あのアイアンメイデン、何時の間に導入したんですか、予算はどこから・・。」
「っていうか、なんで一体だけなのよ。効率悪いじゃない。五百羅漢並に並べなさいよ。」
「いくら、費用掛かると思ってるんですか。ただでさえ、人材費がかさんでるんですよ?余計な出費など認められません。」
「なら、大王の食費を削れば?あれこそ無駄な出費じゃないですか。もしくは自腹で払わせるとか。」
「!いいかもしれませんね、丁度ダイエットさせようと思ってたし。」
上司を上司と思わない発言だが、これが2人の通常運転である。
「あの・・・、そんな事より、あっち見てください、あっち!」
「あ!鬼灯様、叉羅様!お二人とも、申し訳ありません!お忙しい中・・・」
担当の鬼が鬼灯たちに向かって頭を下げる。
「お!その遜った態度、そいつら上官だな!?」
鬼灯と叉羅に気付いた青年はピッと刀を向ける。
「俺と勝負しろ!!」
・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・えーと・・、あの困ったさんはどこの子ですか?」
「あれが桃太郎って奴です。」
「ヒ、ヒソヒソすんな!」
ボソボソと耳打ちする鬼灯と獄卒の鬼。どう、絡んだらいいか解らないらしい。
桃太郎らしき人の暑苦しさは何も鬼灯だけではなく、お供の犬、猿、雉も同意だったようで。
完全に周りから存在が浮いていた。
「お前、俺と勝負しな。それとも怖いか?」
桃太郎の見え透いた挑発に鬼灯は乗らなかったが、周りの獄卒はカチンときたようで。
「お前っ・・・失礼だぞ!?」
「鬼灯様はなあ、とっても偉い方なんだぞ!!」
「フーン、・・・どのくらい?」
桃太郎が馬鹿にしたような目を向ける。
「閻魔大王の第一補佐官・・・鬼の中でもトップの鬼神なんだぞ!!」
「大したものではありませんよ、官房長官みたいなもんです。地味地味。」
「ッキャーッッ!!腹立つ!!」
「そして、」
鬼灯は叉羅の肩を抱き寄せた。
「彼女は私の秘書&お嫁さん兼、防衛省副大臣です。」
「兼の役職の方が凄いな!?」
「っつーか。余計なポジション加わってる。」
「我々は鬼ヶ島のゴロツキとは違い、身を粉にして働いています。倒される筋合いは有りません。
それより、今の貴方は定職も就かず、フラフラと・・・。」
「ち、ちくしょう!お母さん・・・いや、お婆さんか!おのれは!?」
「鬼に説教される桃太郎って・・。」
「もうホント・・・あなこの怒りぞはらばさやと思ひ候ふ!!」
なんか雅な怒り方だな。
「さっきまで普通にしゃべってたのに、キレると遡っちゃう人?」
「殴る蹴るの、タイマンはったろかァ!?」
「あ、戻った。・・・何故、ヤンキー?」
タイマン勝負を挑む桃太郎に、鬼灯は金棒を持ち上げて、掌でパンっと鳴らした。
「あ、殴る蹴るでいいなら直ぐに済むからありがたいです。叉羅さんとニャンニャン出来る時間が長くなりますからね。」
「あっ・・・いや、待って・・・暴力は良くない・・・よね!?」
「地獄なので、暴力で解決しましょうよ。っていうか、とっとと終わらせて叉羅さんとの桃色時間作らせろ。」
「案外、桃太郎ってメンタル面弱いな。そして、鬼灯さん、彼を倒しても時間なんか出来ませんよ。
大王があの人である限り。」
鬼灯は顔の影を濃くし、大きく舌打ちをした。
きっと、頭の中でどんな仕置きをしようか模索中なのだろう。叉羅は閻魔大王に合掌した。