鬼神さまと荒神さま
□鬼と獣のラブ・バトル
1ページ/4ページ
「鬼灯さん、明日ちょっと出かけてきます。」
朝から多量の業務を終え、やっと一息ついた時に叉羅がそう言ってきた。
鬼灯はその言葉に眉を寄せる。
「どこへですか?明日は出張なんかありませんでしたが。」
「え、えっと・・・・。」
目を彷徨わせる叉羅を訝しげに見た。心なしか、抱えている書類の束を力強く持っている気がする。
鬼灯は目を鋭くすると、叉羅の近くに寄った。
「何を隠してるんですか。」
「あ・・・っダメ!」
持っていた書類を掴んで引っ張ると、ドサドサと紙が落ちた。その中にあった手紙らしきもの。
急いで拾おうとすると、鬼灯に先を越される。
裏に書かれていた名を見た途端、彼の顔はみるみる歪んだ。
「白澤さん・・・ですか。」
「・・・・・💧」
「夫の私が汗水流して働いてる中、貴女は寄りにもよってあの淫獣と真昼の情事ですか?
何時からそんなふしだらな妻に成り下がったんですか。今夜はもうお仕置き確定ですね。」
「全部違う!今のまるっと全部違う!もう、全て話しますから着いてきてください!」
叉羅に腕を引かれ、若干機嫌は上昇したものの眉間の皺は寄ったままだ。
「鬼灯さん、ずっと白澤さんの電話取り次がなかったでしょ?」
「当然です。あの豚の考えてることなんて、一つしか有りませんから。声すら聞かせたくなかったし・・・。」
「うん、それが原因で白澤さんからちょくちょく手紙が来るようになったんだよ。」
「何ですって・・・?」
自分の目を盗んでどうやって、と鬼灯は思ったが、相手はあの白澤だ。
腐っても中国妖怪の長、自分の知らない方法でまんまと彼女との密通に漕ぎ着けたのかもしれない。
「鬼灯さんに見つかると、また大乱闘になっちゃうから・・それとなく手紙で断ったんだけど・・・
そしたら、益々頻繁に来て・・・一応、倉庫にしまっていたの。自室に隠すと鬼灯さんに見つかっちゃうし・・そしたら。」
叉羅が殆ど未使用状態の倉庫まで来た。ギイっと開けるとドサドサドサと大量に落ちて来た手紙の束。
「何時の間にやら、眼鏡の主人公に届いた某魔法学校の入学許可証状態に。」
「どういうローテーションで書いたんでしょう、あの白豚。」
「昨日、電話でそのこと伝えたら『明後日、こっちに遊びに来てくれたらやめるよ。』とかって・・・。」
「解りました。」
「え?」
「要は彼奴の両腕を引きちぎればいいわけですね?」
「Σ違うから!!もう、そういうことに持っていこうとするから、鬼灯さんに内緒で行こうとしたの!
白澤さんの手を千切ったら、鬼灯さんだって色々困るでしょ!?漢方薬の調合とか!」
「非常に不本意ですが仕方ありません。ただし、私も行きます。どうせ、頼んでた薬もあるし。
白豚を駆逐するついでに薬を貰って行きましょう。」
「本来の目的とついでが逆になってます。」
あの冷徹な鬼には知られない様に来てねと、白澤は言っていたのだけど、こうなっては最早手遅れだ。
自分に出来ることは、其処らに居るウサギが巻き込まれ無いように気を配るくらいだろう。
その日の一日はいつも通りに終わり、次の日に不安を抱えながらも、叉羅は床に着いた。
「・・・・・あれ。」
朝起きると、隣に鬼灯が居なかった。
何時も勝手に自分の隣に潜り込んで、起こすまで気持ち良さそうに眠っているのに。
珍しいなとも思い、着替えて食堂に行ってみたが、此処にも居なかった。
「閻魔様、お早うございます。あの、鬼灯さんは?」
「あ、叉羅ちゃんお早う!鬼灯君かい?ワシも今日はまだ見てないけど。」
食事を終え、何時もの執務室で業務をこなしていると漸く第一補佐官が姿を現わした。
何故か、目に濃い隈を作り、疲れた表情で。
「おはようございます、閻魔大王。叉羅さん。」
「おはようございます、鬼灯さん。」
「おはよー。どうしたの、鬼灯君。すっごい疲れた顔して。」
「昨夜、ちょっと徹夜で・・・。」
「え〜〜、不眠は肌に良くないよ?ハゲるよ。」
「お前がハゲろ。」
「ハ、ハゲるもんか!」
「あ、これから叉羅さんと一緒に桃源郷に行ってきます。頼んでた薬の期日日なんで。」
「ああ、君は和漢薬の研究もしてるんだっけ?お疲れさん。・・・でも、なんで叉羅ちゃんも一緒に?」
「叉羅さんも二年目で大分慣れてきたし、そろそろ桃源郷の事も教えようかと思って。
白澤さんとの仕事も増えてくるだろうし・・・。」
「白澤君か・・・。あの子、君と似てるよね?顔つきとか小難しいところがさ。」
「・・・それ、よく言われますが酷く屈辱です。」
あの世絶景100選の一つ、桃源郷。
神獣、白澤の営む薬局『極楽満月』では、朝から店主が何故か忙しなかった。
仕事で慌ただしいのかと思いきや、ドアには休業のプレートが掛かっている。
「フンフンフ〜ン。」
白澤は鼻歌を歌いながら、何度も鏡をチェックしながら身嗜みを整える。
其処へ不可解な顔をした桃太郎が仙桃を入れた籠を担いで戻ってきた。
「どうしたんですか?白澤様。今日は何だかやけに浮かれてますけど。」
「あ!桃タローくん、お帰り!どうだい、今日の僕は?イメチェンしてみたんだけど。」
「イメチェンって・・・何時もと同じ白衣姿じゃないですか。」
「違うよ!よく見て、ほら耳飾りの花ビラが一枚増えてる!」
「解らん!!」
桃太郎は師弟関係を忘れて大声で突っ込んだ。
「熟年夫婦だって、そんな微妙な所変えても解りませんよ!イメチェンってもっとパッと見を変える事でしょ!」
「解ってないね、桃タロー君は。そういった、さり気ない所を変えてくのが真のオシャレだよ。
あからさまなイメチェンは、「あ、コイツなんか意識してるな」って変な勘繰りを入れられるからね。」
「いや、気付かれないんじゃ、イメチェンしなくても同じなんじゃ・・・。」
「いいんだよ、そういった目立たない気配りが逆に相手に安心感を与えるんだ。ちなみに白衣も襟に小さく兎の刺繍がしてある。」
「ちっさ!リアルな間違い探しじゃないですか!」
白澤はオシャレを終えると、いそいそとテーブルセッティングをし始めた。
何時もは女の子を連れ込んでだらしない風体を見せる師が昨日から急に部屋を片付け、何やらソワソワしている。
「イメチェンは兎も角・・、なんか珍しいですね。白澤様がそんなに浮かれてるの。今日は何かあるんですか?」
白澤はパッと顔を輝かせた。正直桃太郎はドン引く。
「良く聞いてくれたね!今日は・・・今日は、僕の可愛、可愛・・・可爱的女孩子(愛しの女の子)が来るんだよォォ❤❤」
「なんだ・・・また、女性関係ですか。」
桃太郎はげんなりと籠を下ろした。
自分が此処に来てから、既に8〜9人は彼が女性をとっかえひっかえしていたのを見ている。
漢方薬と多くの知識に関しては右に出るものはいないが、これが唯一自分が尊敬できない部分だ。
だが、桃太郎の言葉に白澤は反論する。
「違うよ!彼女は他の女の子と違うの!!僕の特別なんだから!!」
ムキになる白澤に桃太郎も驚いた。
浅く広くをモットーな師は、相手に好かれても相手を本当の意味で好くことなんかないと思ってたのに。
何時もは飄々とした顔を不機嫌に歪ませて、その女の子への思いを語る。
「その子はね、まだ若いのに親元から離れて地獄に来て性悪な上司にこき使われているんだ。
毎日毎日、理不尽な命令やセクハラされて・・・私生活すらその男の思いのままにされてるんだよ、酷いだろ?
僕は彼女を助けようと何度も手を打ったけど、そのたびにその冷徹な鬼上司に邪魔され続けて・・・
やっと、漸く、今日、彼女をこの桃源郷に招くことに成功したんだよ・・・・!」
「・・・・そーですか。」
「何だい、桃タロー君。その淡白な反応は。」
「いや、白澤様が真面な話をすればするほど、内容が胡散臭く感じられて・・・。」
「酷い!!こんなに真剣に悩んでるのに!!大体、君は師匠の僕に対して尊敬さが足りないよ!!
弟子なら、もっと師の気持ちを汲み取るべきじゃないの!?」
「漢方や知識の広さには尊敬してますけど、女性関係には全く信用してませんから。」
「もういいよ!仙桃を貯蔵庫にしまっといて!」
「はいはい。」
桃太郎が奥に引っ込もうとすると、カランカランとドアベルの音が鳴った。
「?」
「!!来た・・・っ!」
白澤は嬉しそうに入り口に走って行った。
「いらっしゃ〜い!待ってたんだよ!!」
「こんにちわ。」
「え・・・、叉羅さん!?」
「あ、桃太郎さん。こんにちわ、久しぶり。」
白澤がニコニコしながら手を取った女性は、泣く子も黙る最凶の鬼神様の秘書、叉羅だった。
意外な顔見知りに桃太郎は驚く。
(あ・・・、じゃあ、冷徹な鬼上司ってのは・・・。)
「もうねぇ、すっごく叉羅ちゃんに会いたかったんだよ!今日も楽しみで昨夜あまり寝られなかったんだ〜。」
『私も白澤さんに会うの凄く楽しみにしてました。』
(ん?)
「ほ、本当!?////」
『ええ・・・、大好きな大好きな鬼灯さんとの時間を邪魔する鬱陶しい貴方をやっと駆逐できるんですもの』
「え・・・、」
訝しげに目線を少し上げると、叉羅の頭の後ろからギラリと此方を睨む亀の様な目。
白澤が条件反射で血を吐く。
「『何時までも馴れ馴れしく手を握ってんじゃねーよ(裏声)』一切闇処に落としてやる前に頼んでた薬遣せ(低)」
「ギャアアアア!!!天使と悪魔のWブッキング!!」
「やっぱり・・・鬼灯さん(💧)」
「私の可愛い叉羅さんに悪魔とは何事ですか!?貴方に天使なんて呼ばれても虫唾が走るだけです!」
「るせーよ!!悪魔はおめーだよ!!何、自分が天使前提になってんだ!?
後ろの百太○みてーな顔してるくせに!!つか、叉羅ちゃんはお前のじゃないだろ!?」
何だか、大騒動の予感に叉羅と桃太郎は溜息を吐いた。