鬼神さまと荒神さま
□下らない因縁ほど根は深い
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閻魔庁、鬼灯の執務室。
今日は叉羅が不在で、鬼灯が一人書類の整理をしていた。
「ハイ、どうぞ。白澤さんにお渡しください。」
「ハイ。」
確認済みと印を押された決算報告書を桃太郎に渡す。
と、彼がじっと自分の顔を見つめてることに気付いた。
「最初、お二人を見て思ったんですけど、鬼灯さんって、やっぱり白澤様に似てますよね。目が切れ長で・・・。」
と、桃太郎が語るたび、鬼灯の目が座っていくのだが、彼はそれに気付かなかった。
軽い口調で女の子を次から次へと口説いては、飽きたらすぐに別れる。
そんな軽薄な獣と自分が似てるだなんて。
ガッ!!
鬼灯の拳が後ろの柱を捉え、バラバラと欠片が落ちた。
桃太郎がビクッと硬直する。
「・・・申し訳ございません。気にしないでください・・・。」
(・・・あ、痛かったんだ・・・。)
赤くなった手の甲をそっと抑えた鬼灯に桃太郎は心の中で呟いた。
其処に、何時から居たのか閻魔大王が現れる。
「説明しよう!」
「あ!え、閻魔大王様・・・っ!こんにちわ!」
「こんにちわ、そう畏まらなくてもいいよ?鬼灯君はね、白澤君と似てると言われると凄く怒るんだ。」
「あ、そうだったんですか・・・。ごめんなさい。」
「いいえ、此方こそ。」
「叉羅ちゃんが絡むこと以外なら、鋼の様な精神を持ってるのに、これだけはすごい屈辱で仕方ないらしい。」
「叉羅さんと言えば・・・あの人って、何者なんですか?見た所、鬼でも亡者でもないし・・・。」
「ああ、彼女は荒神ですよ。」
「荒神?」
「荒ぶる神、悪神、崇り神と呼ばれ恐れられる一方で地や家の守り神として崇められる事もあります。
夜叉や羅刹もこの類ですね。そして、それら全ての荒神を束ねるのが三宝荒神様。
叉羅さんの父君で地獄、現世、天国の不浄なモノや厄災を除去する役目を担っています。」
「ええ!?じゃあ・・・、叉羅さんって、お姫様!?」
「近いモノがありますが・・・、父君と言っても、正確には祖父のようなもので、此方側に居る時の後見人です。」
「此方側?」
「叉羅さんは半分生者として、地獄と現世を行ったり来たりしてるんですよ。
ちなみに現世では女子高生として学校に通ってます。」
「じょ、女子高生・・・!?なんか、ドキドキする響きですね・・・////」
「ええ、ブレザー姿なんかたまりません。」
「君らね・・・。いや〜、其れにしても最初、鬼灯君が叉羅ちゃんを連れて来た時は驚いたよ。」
「え!?鬼灯さんが叉羅さんを!??一体、どういう出会いで!?」
「拾いました。」
「「は・・・?」」
閻魔と桃太郎は呆けた声を上げる。
「叉羅さんは森の泉で拾ったんです。」
「「ハアアア!?」」
「ちょ、鬼灯君!ナニソレ!?ワシ、聞いてないんだけど。」
「当たり前です、言ってないし。」
「いや!それだけじゃ、解りませんよ!もっと詳しく!!」
何故か食いつく桃太郎に鬼灯は顎をしゃくる。
「詳しく・・ですか?まあ、良いですけど・・・。」
と、鬼灯は語りだした。
其れは、今から二年前の事。
『は・・・、お見合い・・・ですか?』
鬼灯は書簡から視線を上げると訝しげに大王を見る。
『そう!!君もそろそろ身を固めたらどうかと思ってね!!どうかな、ワシの知り合いのお嬢さんなんだけど!』
『馬鹿な事を。このクソ忙しい時に結婚どころか恋人を作る余裕なんてありませんよ。
私が今欲しいのは嫁ではなく、優秀な助手です。下らない事言ってないで仕事しろ。』
『「しろ」!?いやいや、忙しいからこそ、支えてくれる人が必要なんじゃない!
結婚はいいよぉ?疲れて帰ってきた時に迎えてくれる優しく綺麗な奥さん、可愛い子供。温かい食事。
ワシなんか、坊がお帰りって言ってくれるだけで一日の疲れがふっとぶもん。』
『だったら私も吹っ飛ばして上げます。』
ドゴォ!!
『キュウ・・・』
家庭内事情を話そうとした大王を、鬼灯は金棒で思い切り吹き飛ばした。
『フウ・・・、やはり良い助手(下僕)をスカウトすべきか・・・。』
こうして、私は良い人材を見つける為、地獄から出て外へ視察に行きました。
私の助手ともなれば、力も頭もそれなりに使えなければ意味がありません。
荒神の森―――――。
数々の妖獣や邪神が住まうという、神聖な地を訪れてみました。
「そんなところがあったんですか?」
「あったんです。まあ、入ったのは半分観光みたいなものですが。」
「神聖な地を観光気分で入っちゃいかんでしょ!?」
私は、森の中を探索しました。
途中、妖獣と逢ったり、妖獣と戯れたり、妖獣とメル友になったりしました。
「最後の何!?」
疲れてきたので一休みしようと、良い所を探すと、少し行った場所に拓けた空間があるのに気付きました。
『これは・・・、凄いな。』
其処には透き通った綺麗で大きな湖。
ふと、其処の幾つか生えている木の根元に人が居ることに気付いたので近寄ってみました。
『すみませんが・・・、貴方は荒神です・・・か・・・。』
黒い大きな幻獣の腹の上で、その女性は静かに目を閉じて微かな寝息を立てていました。
白い肌、優しい栗色の髪、艶やかな唇。華奢な身体を隠した白い巫女衣装。
それらが湖面と日の光で淡く照らされていました。
『・・・・・・。』
私のなかであれやこれやそれとか兎に角、いろんなものがはじけました。
「あれこれって何!?何がはじけたの!?大事なトコ曖昧すぎるでしょーが!?」
今まで女性については容姿など気にしてなかったんですが・・・初めて見惚れるということを経験したんです。
「あの鬼灯君が・・・、そんな甘酸っぱい経験を・・・・。」
「なんか、微笑ましいですね・・。そ、それで・・・どうしたんです!?」
彼女を見て、激しく胸が高鳴った私は。
「「うんうん。」」
持っていたズタ袋に眠っている彼女を詰めて、持って帰りました。
「「おおおおおいいいい!!!???」」
淡々と言い切った鬼灯に閻魔と桃太郎はコラボで突っ込む。
「おかしいでしょ!?最後、思いっきりおかしいでしょ!?っつか、何でズタ袋なんか持ってんの!?」
「スカウトして断られたときの最終手段として・・・。」
「立派な誘拐だよ!其れ!!官吏が一犯罪犯しちゃダメでしょうが!?」
私は、急いで閻魔庁に戻りました。
「スルーして回想シーン再開した!(;゚Д゚)」
『あ、鬼灯君!お帰り、どこ行ってたの?って、なに背負ってるの?』
私はズタ袋をそっと下ろし、中から眠ってる彼女を取り出しました。
「なんか、日本語おかしくない?」
「っていうか、なんでそこまでされて起きないんですか?叉羅さん・・・。」
『閻魔大王!私、彼女がイイです!!彼女にします!!』
『え・・・、彼女がイイって・・。ああ!助手の事か!うん、まあ君がスカウトしてきた子ならいいんじゃない?』
『何を寝ぼけた事を言ってるんですか!?お嫁さんの方に決まってるでしょう!!??』
『えええ!ソッチ!!??』
「そうそう、そんな感じ・・・ってそういう風に繋がってたんだね・・・。」
「助手を見つけるつもりが、お嫁さんを見つけてしまったというオチです。」
「叉羅さんからしたら、かなり災難というか・・・起きたら見知らぬところに居たわけだし・・・。」
「あの後、大変だったよ〜。怒った三宝君、何とか宥めすかして・・・叉羅ちゃんを此処で働かせて貰えるように頼んだんだから。」
「何というか・・・お疲れ様です・・・。」
「ありがとう。それで、鬼灯君も目が覚めた叉羅ちゃんに、開口一番でプロポーズしてたからね。」
「ぷ、プロポーズ!?」
「あの時は、私も叉羅さんゲットで必死でしたから。」
『好きです愛してます!一生、金にも愛にも金魚草にも不自由はさせませんのでお嫁さんになってください!!』
『ごめんなさい(金魚草?)』
「間髪入れずに断られました。」
(まあ、そりゃそうだろう・・・。)
目が覚めたら、何故か知らないところに居て見知らぬ男に鬼の様な形相で(鬼だけど)詰め寄られたら、トキメクどころかトラウマである。
「プロポーズ以前に言うことがあったでしょ。自己紹介とか、こうなった経緯を説明するとか・・。
まあ、断られてもめげなかったもんね、君。何とか、あの子を繋ぎ止めようと自分の秘書に強制就職させたし。」
あの時は本当に大変だったと、閻魔はしみじみと遠い目を向けた。
鬼灯も書類から顔を上げて、ふとその時の事を思い出す。