鬼神さまと荒神さま

□下らない因縁ほど根は深い
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「・・・・その時、受けた傷跡がこれです。」



閻魔は胸に受けた北斗七星の傷跡を見せた。



「良い塩梅に・・・・。」


「千年経っても、まだ残ってるとは・・・・。」


「元々、合わなくてピリピリしてて・・・あの賭けで一気に爆発したみたい・・・。」


(何という下らない起爆剤・・・。)


(賭けがきっかけというより、閻魔様の言葉が2人の確執の原因だと思う。でもどっちにしても下らない。)



叉羅達の心のツッコミは執務室の空気を何とも言えない気まずいモノに変えた。



「いや・・・、あの時は私もどうかしていたのです。あんな賭けに乗るなんて・・・。
 でも譲りません。アレは私の勝ちです。」


「もう、いいじゃん。そこは・・・・。」


「そもそも、女性の胸を賭けの対象にするなんて下衆の極みですよ。2人とも衆合に堕ちろ。」


「持ち込んだのはあの淫獣です。私が反応するのは貴女の胸・・・とういうか全てですから。」


「なんで、そうやって全部下ネタに持っていくんですか!もうヤダ、カラス天狗警察に連行されろ!!」


「そんなツレない事を言う子は、また揉みますよ!?今度は直に!」


「言いながら、服の中に手を入れてくんな!そんなんだから、白澤さんにそっくりって言われるんです!」


「あんな不特定多数の女をとっかえひっかえしてる、ただれた獣と一緒にしないでください!
 私は貴女一筋です!貴女もあの賭けの勝利もあの駄獣には一切譲りません!!」


「あの・・・、だったら思い切って確かめてみては?スタッフ腕章付けてたのって日本の鬼ですよね?
 特徴とか覚えてるなら、頑張れば特定できると思うんですけど。」


「!そっか、そうだよね!あの時の名簿くらいあるよ。その人には失礼だけど、この際ハッキリさせて仲直りしなよ。」



埒が明かないと提案してきた桃太郎の言葉に閻魔も大きく頷く。
全く、そのくらいの行動力を何故仕事に発揮しない。と第一補佐官は思った。


そして、数時間後・・・・・・。



「アタシ?ニューハーフだけど、手術はしてないわよ。」


「・・・・・・。」


「・・・・・・。」


「・・・・・・。」


「・・・・・・。」



一瞬の沈黙の後、鬼灯は素早く携帯を取り出し、白澤の登録番号を押した。ちなみに登録名はシロブタ。



「もしもし!鬼灯ですが、1000年前の賭けで対象だった人物はニューハーフでした!
 手術はしてないので体は男性です!従って胸囲は男性と見なしますので私の勝ちです!!」


『!いいや、認めないね!心が女なら立派な女性だ!』


「なら、貴方はその方とお付き合い出来るんですか!?一夜を共に出来るんですか!」


『気色悪いこと言うな!僕は女の子の身体が好きなの!寧ろ、叉羅ちゃんと付き合いたい!結婚したい!』


「ふざけるな、このエロ豚!彼女は私の嫁になるんです!もう、何度も一夜を共にしました!!」


『!!??なっ、なんだと・・・この朴念仁!!そんな出鱈目を・・・!』


「出鱈目なんかじゃありませんよ、大変可愛らしかったです。柔らかくて甘い香りがして・・・。」


『くそ・・・!!僕なんか・・・僕なんか・・・妄想でしかイった事ないのに・・・!!』


「妄想するのも烏滸がましい!いいですか、叉羅さんは私の・・・・。」



ザシュ!!

ビイイイン・・・・。


鬼灯のすぐ横を何かが横ぎった。
珍しく硬直した顔で見てみると、自分の顔すれすれの位置で壁に切り裂いたような穴が開いていた。

無意識にスピーカーのボタンを押してしまう。



「いい加減にしろよ、このエロ爺どもが・・・・」



無間地獄から響いてくるような低くドスの利いた声に、鬼灯は身体をビクッと震わせ、ギギギと声の主の方を向く。

陣風長弓を構えている阿修羅がいた。

電話向こうの白澤も顔も見てないのに、その声と空気が伝わり、身を硬直させている。



「1000年前に何があったのかと思えば、そんな阿保くさい事で何時までもいがみ合って・・・
 挙句にアンタはあることないこと吹き込むわ、色ボケ漢方医はヒトを勝手に夜のおかずにするわ・・・。」


「あ、あの・・・叉羅さん?」


「いい加減!!反省しろっっ!!この性格破綻者どもが――――!!!」


「『すみませんでしたァァァァ!!!」』



栗色の髪は紅く変化し、まるで炎のように空に揺らめいている。
金色の凍てつく眼と額に浮かぶタントラの印。見るもの全てを竦ませる荒神の姿。



「ああああ、あれ・・・何すか!?」


「あれが、叉羅ちゃんのもう一つの姿、荒神の『阿闍梨・鬼叉羅』姫だよ。」


「な、なんか・・・あそこだけ空気が違うんですけど!てか、鬼灯さんが土下座してる!?」


「うん、・・・ああなったら幾ら鬼灯君でもタダじゃすまないから。
 彼女、導火線は長いんだけど一旦火が付いたら止まらなくなるんだよ。」



好きな子に手荒な事出来ないしという閻魔に桃太郎は、会った時に彼女にケンカ売らなくて良かったと身震いした。
きっと、電話向こうの自分の師も見えない相手に向かって土下座してることだろう。


その後、ピリピリした空気の中、桃太郎は這う這うの体で極楽満月に帰ってきた。

更にその後、暫く機嫌の直らない荒神の姫を鬼灯と白澤が必死に宥め落ち着かせたと閻魔から聞いた。


(常闇の鬼神と吉兆の神獣なのに。)


真のWinnerは彼女。



                                                                 終
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