鬼神さまと荒神さま

□地獄の日常
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朝、6:30分。

第一補佐官、鬼灯の秘書兼防衛副大臣叉羅、起床。

黒曜に挨拶をして顔を洗う。

身嗜みを整え、7:30分まで今日一日のスケジュール、問題点を確認する。

7:30分。鬼灯を起しにベッドに向かう。


・・・・・・・・・え?


「鬼灯さん、起きる時間です。さっさと起きないとシャイニングウィザードぶちかますぞ。」


「ううん・・・。」


(叉羅の)ベッドから掠れたバリトンボイスが聞こえ、もぞもぞ布団が動いたかと思ったら、
 バサバサ髪の鬼灯が身体を起こした。


「おはよう・・・ございます、叉羅さん・・・。」


「おはようございます、全く・・・毎回毎回、いい加減私のベッドに潜り込むのはやめてくれない?」


「だが断る。貴女の隣は寝心地いいので・・・・。」


最初に言っておこう、この2人はまだ付き合っていない。
鬼灯が一方的にモーションを掛けているだけである。
しっかり、鍵を掛けているのにも関わらず、鬼灯は叉羅の部屋に入りこんで彼女のベッドで寝たり
部屋を物色しては怒られるが、全く懲りていない。


「いっそ、もう壁をぶち抜いて一つの部屋にしませんか?そのままの勢いで結婚しちゃいましょう。」


「貴方の私物までこっちに溢れてくるだろうから、却下します。それに結婚をなりゆきやついでの様にするな。」


布団の中で屁理屈をごねる鬼灯を起し、着替えさせる。(もちろん彼の部屋で)

その間に黒曜に朝ご飯を与える。


朝8:00、食堂にて朝食。


「朝鮭定食。」


「納豆定食。」


8:06分 向かい合って食事。


「叉羅さんて納豆好きですよね。キスするときネバネバしそうです。」


「そんな機会、今までなかったでしょうが。朝ご飯のあと、ちゃんと歯を磨いてます。」


8:12、大王が食堂で注文して、鬼灯たちを発見する。


「おお、鬼灯君。叉羅ちゃん。お早う・・・ワシも一緒に・・・。」


ヒュン!ドカ!!


閻魔大王、鬼灯に金棒を食らわされる。


「叉羅さん(妻)との朝の団欒タイムに割り込んでこないでください。
 っていうか、朝から暑苦しい顔を見せんじゃねえ。」


「ごべんだだい・・・。」


9:00、職務開始。


「閻魔様!また、三途の川で亡者たちがストライキを!」


「阿鼻地獄が人材不足で・・・!」


「焦熱地獄で大噴火が起きて、負傷者が!」


「ああ、もう一辺に言われても解らないよ!鬼灯君っっ!」


「こっちも手一杯です!そのくらい、自分で片してください!バカ大王!!」


「鬼灯さん、お忙しいところすみませんがこの決算を見てくれませんか?私は三途の川に向かいますので。」


「大丈夫です、今手が空きましたので。抑制ですか?気を付けて行ってきてください。」


「ハイ。」


叉羅の姿が見えなくなるまで、鬼灯はジッと見送った。
その後ろ姿を大王も見つめる。


「フウ・・・。・・・何を見てるんですか!?さっさと仕事しろって言っただろう!!髭達磨!!」


「君、ホント叉羅ちゃんとワシとじゃ声のトーンも態度も違うよね!?」


12:00 昼食&休憩時間

鬼灯の趣味の時間もあって、たまに食堂でお弁当を貰って中庭で食べる。


「ワンセグ禁止令?」


「ええ、こないだの一件の事で、満場不一致でしたが可決されました。」


「こないだ・・・ああ、『サダコ逃亡事件』。それで、最近スマホやiPad持つ獄卒を見ないのね。」


「ええ、休憩中ならまだしも仕事中に持ち出す従業員が増えてましたからね。
 いい機会です、これで少しは仕事にも精が出るでしょう。
 それよりも、また不喜処地獄で欠員が出て従業員不足になってしまいました。」


「ああ、夜叉一さんとクッキーさんね。お目出度いじゃない。ご祝儀は骨かドッグビスケットがいいかしら?」


楽しそうに考える叉羅をお握りを頬張りながら見る。


「叉羅さんは結婚願望とかあるんですか?」


「え?なに行き成り・・・。」


「いえ・・、現世でもモテてたのに彼氏もいなかったし、私のアプローチにも中々乗ってくれないので。」


「結婚願望は兎も角、理想の男性像位あるわよ。FFのスコールとかBASARAの正宗様とか!」


「ゲームキャラじゃないですか!そんな二次元に浸かりまくって現実から目を反らすのはやめなさい!」


「出た!鬼灯さんのおかんスキル。やめろって言ったって・・・カッコいいからついついハマっちゃうんだよ。
 大体、ゲームキャラや漫画キャラの美形って女性の理想の集大成じゃない。
 現実の男では絶対ありえない強さ、美形、影のある過去・・・あ、あと人外めいたとことか。」


「・・・最後の条件で生きてる男全否定ですよ。と、いうか・・・それって、モロ私じゃないですか。」


強くて(鬼神だし)美形で(目つきが悪いが)影のある過去(孤児&生贄)を持つ人外(鬼ですね)


「・・・あ――。って、美形を認めちゃう辺り、鬼灯さんも割とナルシストね。」


鬼灯が叉羅の手を取る。
引き寄せて、自分の腕の中に閉じ込めた。


「ちょ・・ッ鬼灯さん!」


男に免疫のない叉羅は顔を赤らめる。


「ゲームのキャラは所詮、画面の中だけの存在です。こうやって見つめ合うことも触れ合うことも出来ない。」


鬼灯が首筋に顔を埋めると、柔らかい身体がピクっと動く。
ああ、可愛い。
こんなに愛おしく思える存在は今までなかった。


「貴女は、狡いです・・・。私の気持ちを知っておきながら受け入れず、かといって触れても嫌がって抵抗しない。
 貴女が本気になれば、私の力など捻じ伏せてしまうのに。いい加減宙ぶらりんな関係はやめませんか?
 もう、観念して私のモノになってくださいよ。」


脳に直接響く様な綺麗なバリトンボイスが叉羅の頭を沸騰させる。
クラクラして身体が動かない中、鬼灯が叉羅の指に何かを握らせた。

何だろうと指元を見ると、彼が愛用してる鬼灯の柄が着いたボールペン。


「さあ・・・、観念して書いて印を押しなさいっ!」


「ヒイイ!悪徳勧誘っっ!!」


強引に婚姻届を書かせようとしてくる鬼灯に叉羅は紙を奪って引き裂いた。


「あ。」


「残念でした!!そう簡単にサインなんかしません!!」


鬼灯は懐から分厚い紙の束を出した。


「こんなこともあろうかとストックはたっぷり用意してます!」


「ヒイ!鬼灯マジック!?最近、役所で婚姻届が不足してると聞いてたが、アンタの仕業かい!?」


「貴女が素直に書いてくれれば、もうストックも必要ナシ=婚姻届の用紙不足も解消されるんです!
 私の為にも、他のカップルの為にも潔く記入しなさい!!」


「こんなカツアゲめいた求婚初めてだよ!!何で全部の原因が私にあるみたいな感じになってんの!?」


ガッチリ腕を掴まれ、ペンを握らされ、無理やり文字を書かせられる。
抵抗してる為、かなりよれよれだが一応、自分の手で書いてしまった名前だ。
荒神の力は巨大でコントロールも難しい。彼を止めようというなら、手加減は出来ない。


(ああ、もう・・・っ)


その時。


《お昼休みは終了いたしました。各職員、獄卒の皆さんは持ち場に戻り、職務を再開してください。繰り返します、お昼休みは・・・》



「・・・・・。」


「・・・・・。」


2人はパッと離れた。


「執務室に戻りましょう。(チッ、あと少しだったのに。空気読めよ、館内放送)」


「そうですね。(あああ・・危なかったァァ。今日も何とか生き延びたぁ。ありがとう、館内放送!!)」
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