鬼神さまと荒神さま

□地獄と不思議と愉快な仲間たち
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閻魔庁がある閻魔殿。
壮大な建物の裏手に大きな中庭があり、其処には鬼灯が丹精込めて育てた金魚草が今日も活きの良い動きを見せていた。


「肥料を変えるべきか、餌を変えるべきか。・・・・それが、問題だ。」


鬼灯がポツリと呟いた。


「どう、思います?叉羅さん。」


「ツッコんでいい?餌ってナニ。」


無表情の鬼灯の隣には、遠い目で金魚草を眺める叉羅が居た。
そもそも、植物の栄養源は太陽と水ではなかったのか?
2年間此処にいるが未だにこの植物の謎が解けない。

其処に書簡を持った職員が通りかかる。


「おお、凄い。いっぱい増えましたねぇ、鬼灯様が品種改良なさった金魚草。
 今じゃ、愛好家も多くて大きさを競う大会もあるんでしょう?僕のいとこも没頭しすぎて、嫁さんに怒られてますよ。」


「何せ、忙しくて叉羅さんと旅行どころかデートにすら行けない身なので、つい趣味にのめり込んでしまいますね。」


「叉羅様は怒ったりしないんですか?」


「金魚草以上に構い倒していますから、怒る余力なんて残してません。」


「・・・・・御馳走様です。」


(いや、私はいいから金魚草を構えよ。っつうか解放してくれよ。)


水遣りを終えた鬼灯は叉羅を伴って、夕食を摂るために食堂に来た。


「私の時間かかりそうなんで、先に席に座ってて、鬼灯さん。」


「解りました。」


鬼灯はテレビが設置された席に座ると、チャンネルを合わせた。
今日は彼が毎週欠かさず見ている『世界、不思○発見!』の放送日だ。
其処に、大きな丼を抱えた閻魔大王がやってくる。


「今日の〜夕食は〜シーラカンス丼〜。あ、鬼灯君。」


大王は鬼灯の向かい側に座り込むと、彼が見てるテレビを覗き込んだ。


「これ、現世の番組?」


「そうです。CSにすると見られますよ。この番組の司会者の存在感が好きです。」


「微妙な所に注目したがるね、君は。そういえば・・・君の仕事場にあったあの人形・・・ 
 あれって、クリスタルなヒトシくんか!?」


「一緒にモンゴルの衣装も当たりました。どうしよう、アレ・・・叉羅さんにもイラナイって断られたし。」


「凄いな!地味に!!」


漸く料理の出来た叉羅が鬼灯たちの元にやってきた。


「お待たせ・・・、あ、閻魔様。お疲れ様です。」


「ああ、叉羅ちゃん!お疲れ様。」


叉羅は鬼灯の隣に座って箸を持つ。


「ハァ・・・、しかし良いなあ、海外か。ワシ、ここ千年くらい仕事以外で海外なんて行ってないしなぁ。」


「私もです。『魔女の谷』とかゆっくり観光したいですね。」


「ナニ、その地名。めっちゃ気になるんですけど・・・。」


「なら、今度連れてってあげます。」


ちゃっかり婚前旅行を目論む鬼灯に対して、テンションが上がる叉羅は気付かない。


「ワシは現世がいいなあ・・・世界の中心(エアーズ・ロック)に旗立てて「チキンライス!」って叫びたい!」


「えっ・・・よしなさい!エアーズ・ロックを旗で突くなんて、地球のお腹が痛くなっても知りませんよ!?」


「君、チョイチョイお母さんみたいだな!?」


鬼灯が金棒で大王の顔をゴリゴリと突く。


「地球に優しくなさい!」


「君がワシに優しくない!!」


「私の優しさは全て叉羅さん(と金魚草)に注いでます!それ以外にあげる分なんて残ってません!」


「酷い!!」


その後、叉羅が宥め漸く場は落ち着いた。
3人は食事をしながら、再びテレビ画面に注目する。


「・・・でも、オーストラリアは行きたいです。」


「いいよね、綺麗だし・・・独自の自然が一杯だし・・・。」


「ええ、それに・・・。」


画面に愛くるしいコアラの映像が映る。


「コアラ・・・めっちゃ抱っこしたい。」


「コアラ!?」


鬼灯の意外な発言に大王は面食らう。


「君、どっちかっていうとタスマニアデビル手懐ける側だろう?」


「失敬な!どちら側かと言えばワラビーとお話したい側ですよ!」


「私はクォッカを愛でたい。監視員の目を盗んでモフモフしたい。」


クォッカ・・・正式名クォッカワラビー。カンガルーの一種で最も小さい個体。
       あまりの愛くるしさに『世界一幸せな動物』として有名になった。絶滅危惧種の為、触ることを禁止されている。


「良いですね、クォッカ・・・。クォッカを愛でる貴女事、愛でたいです。」


「叉羅ちゃんは兎も角・・・君の頭ン中、割とシルバニアファミリーチックだな!?」


動物を熱く語る鬼灯に呆れながらも、微笑ましさを感じる大王。


(案外、ムツゴロウさんに憧れていたりして・・・鬼灯君と愉快な仲間たち・・・なんちゃって・・・)


大王の頭の中にバックに猛獣を従えて仁王立ちをした鬼灯の姿が浮かび上がった。


「い・・、いかんいかん!鬼灯君!ペットは小型にしてよね!?」


「は?私は今の所、金魚しか飼ってませんが。」


「私の黒曜は大型ですが、普段は子猫サイズですよ。」


「金魚草・・・ああ、あの。あれってさ、動物なの?植物なの?」


「どっちでしょうか?「動植物」ですかね。そういえば一番長寿の金魚草が3mを越しまして、愉快ですよ。見ます?」


「愉快な仲間たち、既にいた!!」


「今年も金魚草のコンテストがありますが、私は一昨年殿堂入りさせて頂きましたので、今回は審査員です。」


「君、色々やってるな・・・。」


金魚草の良さがいまいち解らない大王は、あれこれ聞くがやっぱり理解できない。


「アレって君が品種改良したんでしょ?長い付き合いだけど、未だに君のミステリーは尽きないよ。」


「そうですか?私は至って単純な男ですよ。」


「叉羅ちゃんを好きになるまで、女の子の好みとか想像出来なかったし・・・。」


「一番、もろタイプは叉羅さんですが・・・強いて言うなら虫や動物に臆さない人が好ましいですね。」


「ああ・・・、確かに叉羅ちゃんもどんな生き物とか平気そう・・。」


其処へ張本人が異議を唱える。


「失礼ですね。私だって苦手な生き物くらい、いますよ。」


「「え!?」」


其処まで驚くこと?殴るよ2人とも。


「意外だね・・・。やっぱり虫とか?」


「虫は・・・好みに分かれますが、一番苦手なのは蚯蚓ですね。」


「ミミズ!?ミミズって、地面の中にいるあのミミズ?」


「あんなものが怖いんですか?」


「生理的に受け付けないんですよ。動きもそうですけど・・・どっちが頭かお尻かわかんない所が。」


「え!苦手ってそっち!?どっちでもいいじゃん、そんなの!」


「そんなことないです!重要事項ですよ!?」


山道でふと歩いてると・・・。

木の根元に一本の蚯蚓。

立ち止まって、ジッと見てみる。

うにゅうにゅ動く蚯蚓。

マジマジと見てみる。

時折、身体を震わす蚯蚓。

思いっきりガン見する。

異様さを感じて、土中に入ろうとする蚯蚓。

・・・・・・・・・・。


「どっちに向かって挨拶したらいいか、解らないじゃないですか!」

間違って尻に目を向けて話しかけてしまったら超気まずいです!!


「ナニ、蚯蚓とコミュニケーション取ろうとしてんの!?」


「現世では思いっきり無視してたんですけど、地獄では動物も話すから、蚯蚓も「サワッディー」位は返してくれるかなって。」


「何故、タイ語。」


「あ、あとゴキブリがダメです。」


「あ〜、やっぱそういうとこ女の子だねえ。」


大王がうんうん頷く中、鬼灯は頭の中でシュミレーションしてみた。
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