薄桜鬼

□バカップルの別れ損
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総司に、別れを告げられた。いつかはこんな日が来るとは思っていたが、まさかこんなに早く来るとは思っていなかった。

その言葉を聞いて、情けねぇ事に俺は何も言ってやれなかった。寂しがりの総司に、寂しい思いをさせてすまなかった、とか、幸せになれよ、とか、大人らしい言葉のひとつも発せられなかった。

ただ、分かった、と。

女々しい言葉が飛び出る前に、別れたくないと醜態を晒す前に、せめて潔く総司を解放してやりたかった。
………これで、良かったんだ。



くすぶった気持ちを抑えて、翌日の授業に向かう。

総司に会うのは若干気まずい気もしたが、そこは大人らしく変わらない態度を貫かなければならない。
そう決意して教室の戸を開けると、総司はいなかった。

またサボリか…と思ったが、昨日の今日だ、気まずいのかもしれない。総司が欠席した事に少しだけほっとしながら、授業を始めた。


総司は、次の日も来なかった。いや、登校はしているようなのだ、俺の授業に出ないだけで。

……避けられている。

突き付けられたその事実に、目の奥がツンと痛くなった。






土方さんの誤解を解けないまま数日が経ってしまった。

その時は、絶対誤解を解いてまたラブラブに戻るんだ!と息巻いていたけど、いざ土方さんの姿を見ると、拒絶されたらどうしよう、なんてチキンな考えが僕を支配した。

そうしてタイミングを逃したまま、土方さんの授業も出ずにずるずると日にちだけが過ぎて行ったのだった。



放課後、剣道部の練習が終わり、忘れ物を取りに教室へと向かう。
もう外は暗くなり始め、校内に残っている生徒は殆どいないだろう。

…土方さんはまだ、いるだろうか。今から準備室に行けば、会えるだろうか。


……会いたかった。


長いすれ違いの時間を耐えたのに、僕は何て馬鹿な事をしたんだろう。
土方さんが素っ気ないのはいつもの事じゃないか。乱暴な言葉使いの中に僕への想いがいつも見えていたじゃないか。

あの人の事を想うと会いたくて会いたくて堪らなくなった。


…会いに、行かなくちゃ。


教室へ続く廊下を急いでいると、ふと僕のクラスに誰かがいる気配がした。

誰だろう。
歩を進めて、立ち止まる。

心臓が、ドキリとした。

そこには、会いたいと切望し続けた、最愛の人がいた。

(土方さん…)

気づかれないように、戸の影からその姿を見つめる。
土方さんは何故か僕の席に座っていた。脚を組んで顔は窓の方を向き、考え事をしているみたいだった。
相変わらず綺麗な顔だが、その表情は憔悴しきっている。

、と。

その紫紺の瞳から一粒、水滴が零れ落ちた。

瞬間、僕は弾かれるように土方さんの前に飛び出していた。

「土方さん!」
「………っ!…そう、じ…」

土方さんの驚いた顔が、僕を見た。ずっと見てなかった、僕の大好きな土方さんの綺麗な顔が。

「何で…泣いてるの」
「!!…泣いてねぇ。目にゴミが入っただけだ」

伝う滴をゴシゴシと拭って土方さんは強がった。
それから少し、沈黙が広がる。

「……………」

気まずい静寂を破ったのは、大人の仮面を付けた土方さんだった。

「…気をつけて帰れよ」

ガタン、と音を立てて僕の席から立ち上がると、廊下に向かって歩き始めた。


……行ってしまう…。


「行かないでよ!」

気づいた時には、僕は大声で土方さんを引き止め、その身体を腕の中に抱き込んでいた。
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