薄桜鬼

□バカップルの別れ損
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自分で言うのもナンだけど、僕と土方さんはお似合いのカップルだと思う。

学校では教師である土方さんをからかって怒られたりするけど…それだって僕らの愛情表現だし、休みの日には朝から晩まで愛し合ったりもする。(やり過ぎて怒られる時もあるけど)

とにかく僕は土方さんが大好きで、土方さんも僕の事愛しちゃってて、僕らはラブラブあちちなバカップル。

……だと思ってた。





ある日の休日、いつもみたいにイチャイチャして、ちょっと意地悪したりしながら愛を確かめ合った後、ベッドの上で土方さんは「そういえば」と前置きして話し始めた。

「悪ィがしばらく会えなくなるかもしれねぇ」
「何でですか!?」

あまりに唐突な台詞に僕は心底驚いた。

「いや…ちょっと研修に行かなきゃならなくてよ、その後中央の会合が立て続けにあって、期末試験の問題も…」
「もういいです」

あとどれくらいのスケジュールがその口から飛び出すのかと思って、うんざりした僕はそれを遮った。

「総司」

拗ねたフリをして土方さんに背中を向けたら、後ろから抱きついてくる。

「分かってますよ」

土方さんからの珍しい甘えた仕草に、僕はすぐに白旗を上げるしかなかった。

会えないなんて本当はすごく嫌だけど、土方さんは忙しい先生だ、仕方がない。

会えなくなる分、目一杯土方さんを充電して、僕らは長いすれ違い生活に入った。






―――甘く、見ていたみたいだ。


今まではほとんど毎日顔を見ていたから、こんなに長い間会えないのは、予想以上に堪えるものだった。

研修は他県で行われているようで、何日も会えない上、忙しいからか途中から携帯も繋がらなくなった。
やっと戻ってきても、会議に出るとかでしみじみ話す時間もない。そうしている内に、試験期間に入り職員室への入室が制限されて、僕の我慢はもう限界だった。

これはもう、土方さんからおねだりでもして貰わなければ気が済まない。会いたかった、好きだ、愛してる。何でもいいから、土方さんの口から甘い告白を聞きたい。

でも恥ずかしがりのあの人は、そうそうそんな台詞を言ってくれたりはしないから、何とかして僕を求める言葉を言わせる為に、僕は作戦を練る事にしたのだった。



試験期間も終わり、ようやく長いすれ違い生活も終わる予定だったその日、僕は土方さんの私室となりつつある古典準備室に向かった。

そこなら二人きりになれるし、作戦を実行するのにもってこいだったから。

――作戦は、こうだ。

あまりにも放っておかれた僕は、寂しさの余りに別れを切り出すんだ。
当然、土方さんは驚いて…僕にすがりついてくる。俺は別れたくない、愛してる…そこで、もう僕を放っておかないで、って土方さんを優しく抱き締める……完璧な、作戦。

もしかしたら、抱き締めるだけじゃ収まらないかもね…なんて考えながら、ノックもせずに準備室のドアを開いた。

「総司か…ノックか声掛ける位しろよ」

ずっと会いたかった人が、そこにいた。いつものようにデスクで何か書き物をしていて、こちらの方はチラッと流し見ただけだった。

…久しぶりに会ったのに、もうちょっと嬉しそうにしてもいいんじゃない?

そんな事を思いながら、作戦を実行する為に思い詰めた表情を(もちろんフリだけど)作って、重たい雰囲気で土方さんに話しかけた。

「土方さん…話があるんですけど」
「…何だ」

僕の様子がいつもと違うのに気づいたのか、顔を上げてこちらを見てくれた。

さあ、作戦開始だ!

「僕、ほったらかしにされて…耐えられないんで」

どんな表情を見せてくれるだろうか。

「別れて、くれません?」

土方さんの肩が小さく震え、何かを書いていた手が止まる。

さあ、言って下さい。別れたくない、総司を愛してる、って。

期待して土方さんの返事を待つ僕の予想に反して、帰ってきたのは意外な言葉だった。


「そうか…分かった」


僕は一瞬にして思考能力がなくなってしまったようだった。
瞬きもせず、何も言えないままその場に固まる。

そんな僕を見る事もなく、土方さんは淡々と「話はそれだけか」と僕を準備室から追い出した。





どうやって帰宅したのかは覚えていない。気づいたら、僕は自分の部屋に帰ってきていた。

どうしよう。
どうしよう。

こんな筈じゃなかった。

土方さんが僕の言葉に驚いて、もっと一緒にいてくれるようになる筈だったのに。

やっぱり嘘でした、なんて言って許してくれるだろうか。でも、絶対何とかしなければ。だって僕は、別れる気なんてさらさらないんだから。
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