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□いろどり
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本当に、ありえないと思う。

そりゃ、個人の自由だと思いますよ。

不良でも暴力男でもいいって女もいるし、アニメや漫画のキャラが嫁ってぐらい好きとか、

そりゃ、好きになっちゃったんだし、仕方ないことだと思う。

好きになってしまう対象を他人がとやかく言っても仕方ないと思う。

やっぱり好きなんだから。





でも、やっぱり、これはどうなんだろう。



私の視線の先には



同性がいます。












*********************





上村 雪子 短大一年生、性別 女



ただいま、絶賛片思い中。




女性に。







相手は、大学教授の助手さん。

名前は、笹原 彩夏。

名前も可愛い。




今年、新任ということで、まだピチピチの23才。私とは4才差。

しかも、この大学の卒業生だ。

だから、私と入れ代わりで卒業したのだ。

まあ、先輩と言っても差し支えないだろう。





私が通う大学は、明治からある由緒正しい女子大だ。

被服系を中心に扱っている。

私の所属する短大は、四年制から派生したものだ。

だから、四年制、短大は同じキャンパスで授業をしている。

彼女は、四年制出身、私は短大だ。





大学が豪語するように、この大学は被服に力を入れている。その中で、特徴を持った授業も行っている。

帽子制作、ドレス制作、

そして、染色の授業だ。


日本の伝統的な染め物を学び、実際に布を染めるのだ。

しかし、他の授業のほうが華やかなせいか、あまり人気のない授業。

私が受けている染色のこの時間も受けているのは6人だけ。

まあ、その分、スペースも広いし、染色の実験の時は、スムーズに作業ができる。


その染色の授業の助手が彼女なのだ。

最初は、大人しいただの助手さん、と思っていたのだが…




「口ばかり動かしてないで手も動かせ。」



だんだん口調と態度が雑になってきました。

本人が言うには、最初は猫を被っていたそうな。

けれど、その素の感じのほうが親しみやすく、授業中も和気藹々とした雰囲気でやるようになった。

その頃からだった。

彼女のことを気にするようになったのは。



話してみると、サバサバした性格、物事をはっきり言うところに好感が持てた。そして、無表情がたまに笑うと威力がやばい。

そんなこんなで、毎週月曜の染色の授業が楽しみになったのだった。




「笹原セーンセ。」


「んぅ?」



授業の準備の笹原先生を呼ぶ。


相変わらず綺麗な黒髪だ。



「先生って、名前、彩夏だよね?」

「…なんで知ってんの?」



用意していた薬品から目を離して、私を見る笹原先生。

お肌も真っ白で美しい。




「え、一番最初のプリントに書いてあったよ?」


私はプリントを翳す。

すると、笹原先生は、ああといった感じで納得する。


「似合わないと思ったでしょ?」


再び薬品に視線を戻す笹原先生。

量った薬品をビーカーに移す。

そういえば今日は染める日か。


「いえ、可愛いなって思ったんで。」


「可愛くねーよ。有り触れてるだろ。」


相変わらずお口が悪いようです。


「そんなことないと思うけどなー。雪子より可愛いよ。」


いまどき古風なこの名前が若干私は好きじゃない。


「雪子のほうがいいじゃん。」


その言葉に笹原先生を見る。


「可愛いじゃん。」


「…。」


彼女はなんてことないように言ったけれど、私にはそうではなかった。

そして、思いのほかどきどきしている私。



『なに、これ。』



相変わらず笹原先生は授業の準備を進めている。


「…先生。」


「ん?」


相変わらず、視線は薬品に注がれている。
カチャカチャと薬品をビーカーの中で混ぜる音が響く。







「…彩夏ちゃん。」




ピタリと音がやむ。

笹原先生は一瞬、私を驚いたように見た。

それに鳥肌か立った。



「彩夏ちゃん。」



また呼んでみる。


「…そんなふうに呼ばれたの幼稚園以来だよ。」


ふぅ、とため息をつく笹原先生。



「ねぇ、彩夏ちゃんって呼んでもいいですか?」



ニコニコと笑顔を張り付けて言うと、笹原先生は観念したように、



「別にいいけど。」



了承してくれた。



まあ、授業の時は先生って呼びますからね。
と心の中で付け足しとく。





「彩夏ちゃん〜。」


「…はあ。」

けだる気にため息をつくその姿にも何故か心が満たされる。




「…ああ、そうか。」


相手の変わる表情を見て嬉しくなる、








私はこの人が好きなんだ。















「ん?なんかいった?」


首を傾げる彩夏ちゃんに私はまたニッコリと笑って、









「なんでもないよ。」















その考えを私は嘲笑った。
















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