志士夢
□命の系譜
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「――…莉々、起きてるか」
あれから二人で少しばかり話をし、取り敢えず孕む当人には伝えるべきだと判断した。そこで自ら申し出、俺が告げる事にしたのだ。
「……はい」
小さな返事を聞いてから一拍置き、戸を開ける。
「…あぁ、いい」
褥から起き上がろうとするのを制し、横になった傍らに胡座をかいた。
「………」
「………」
莉々は目を合わさずに天井を見つめ、また俺はそんな此奴を見つめて無言になる。
…そうして暫し、沈黙した。
「……………」
「……………」
…はて、どう伝えれば良いものか。
志願したはいいが、こういった事を伝えるには、切り出し方に迷う。
そんな事を悶々と思っていると、
「……わたし」
力無く開いた口から細い声が飛び出した。
「わたし……、総司くんに抱かれた事は後悔してません…」
「……莉々、お前」
聞こえていたのか、と問う前に頷かれる。
「お陰様でやっと確信出来ました。わたしの体の事はわたしが一番解ってるから…」
無理矢理な笑顔に胸が痛む。掠れつつも強い意思の宿る声は続けた。
「わたし、産みたいです」
「…そうか」
「………だけど、怖い…」
「……………」
それはそうだろうなとかける言葉を見失い、押し黙った。年端もいかぬ娘だ、当然不安であろう。
しかし此方の予想を否定するように、首を緩く振りながら苦笑して見せる。
「………産む事は怖くないです。ただ……………あの人、総司くんが知ったら。きっと、此処に未練を感じてしまうでしょう?苦しんで、しまうでしょう……?」
「………莉々」
「それが、怖いんです……っ」
途切れながら震えた声が嗚咽に変わっていった。
俺はやはり何も言えず、行き場なく彷徨う華奢な手を受け取り、握り返す他なかった。
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