志士夢
□You made me cry.
1ページ/1ページ
道を教えてほしい。
そう言われて、警戒せずにいたわたしが悪いのかもしれない。
………だけど。
「──そんなこと言ったって、道聞かれたら教えてあげたくなるじゃない」
憮然と、可愛くない言い方をしてしまう。
「だが、路地裏に連れ込まれただろう?」
はぁ、と溜め息混じりに言われ、ズキンと胸が痛んだ。
「俺がいなかったら、今頃…」
「…っ」
言葉を返そうと思い、口を開いた。けれど、声が詰まる。
彼の言っていることは正しい。それは解る。それが、わたしを想って言ってくれていることだって。…解る。
解るよ、以蔵。
……だけど、何故だろう。温かい筈の貴方の言葉が、どうしてか胸に痛くて。
「!…何故泣く…」
飲み込んだ言葉が涙に変わった。
………自分でも解らない。
ごめん、と呟いた。
「──…ごめんね、以蔵……」
本当にごめん。
困らせてしまったよね、以蔵。
…なのに、貴方は。
「…泣くな、」
優しく、そう言って。
「…お前は…」
静かに、強くわたしを抱き締めた。
耳元に温かな鼓動を感じる。
「…お前は、俺が守る。………必ず、守るから…──」
優しすぎる貴方の声が、わたしの胸を酷く熱くするものだから。
…また少し、その腕の中で泣いた。
『You made me cry.』
*
『幕末志士の恋愛事情/士が守るべきものは、(岡田)』番外。