志士夢

□また会いましょう
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もしも、好きな子が現れたら。

この剣が鈍るのだろうか。

非情を、忘れてしまうのだろうか。










──何時だったか、ふとそんな事を思う頃があった。
再び思い出されたのは……、あの子に出会ってから。










これは恋、なのかな。
…よくわからないけど。
あの子を想うと…
胸が、苦しくて。
込み上げる温かな感情に、思い当たる名前が見付からないのだ。





*





考え事をしながら町を歩いていると、擦れ違う人々が僕等を見てはそそくさと道をあけた。浅葱の羽織は人混みの煩わしさを消してくれるから好きだ。例え町人たちには忌み嫌われようとも。

通り掛かった橋で、不意に足が止まる。まるで術にでもかかったみたいに、自然と。


──…あ、


振り返った先には、僕を見て佇む人が。
開きかけた口を閉じて、その人に体を向ける。
すると彼女は、一足、二足と踏み締めるように歩み寄った。

次第に近付く薄紅の裾から覗く小さな足。
爪先から、徐々に目線を上にずらしていく。

綺麗な、亜麻色の揺れる髪。白い肌。……優しい表情の君。

町人たちとは正反対の、柔和な笑みを携えた彼女は、僕の目の前に現れた。


「──こんにちは、沖田さん」

「……こんにちは」


本当に、不思議な人だ。
見廻り中に話しかけられるなんて、初めての事。


「お仕事ですか?」

「えぇ。君は、お使い?」


にこやかに頷き、手に持っていた風呂敷を少し上げて見せる。


「これ、京で一番のお茶菓子だそうで。あ…そうだ、余分に買えたら幾らか頂いても良いって言われてたんです。沖田さん、おひとつどうぞ」

「……えっ」


風呂敷の中から出てきたのは、正しく京一番の高級菓子だった。
こんな大層なものをこんなに沢山買いに行かせるなんて、一体どんな主人なんだろう。
戸惑い、菓子を前に躊躇っていると、目の前の女子が心配そうに眉尻を下げた。


「……甘いもの、苦手ですか?」

「い、いえ、大好物ですよ。…しかし、良いのかなぁ、と」


その答えに安心したのか、表情に明るさを取り戻した彼女は、半ば強引に僕の手を取り菓子を握らせた。


「…あ」

「余裕あるので、ひとつくらい平気ですよ」


心配しないで、と屈託なく笑いかけられて。

僕の心臓は、跳ねた。




*




「──お仕事、頑張ってくださいね」

「…うん。ありがとう」


一頻り世間話をして。別れの言葉を交わした。
彼女が小走りに道を戻っていく。

僕は
見えなくなるまで
その後ろ姿を見送り。

彼女は
一度も此方を振り返らず
町の中へと消えた。










───追いかけたい、衝動に駆られるけれど。
今は、きっと。
追ってはいけない。
………そんな気がする。

だけど
間違いなく、僕のこの想いは。










恋、なんだろう。











「───…また、会いましょう」


届くことのない言葉を紡ぎ。
懐に菓子を仕舞い、やっと歩みを進めていく。










確信を持ったこの想いは

果たして

僕の剣を鈍らせるのか

非情を忘れさせるのか

………或いは。







『また会いましょう』
(次は何処で会えるだろうね…?)



***
沖田くん同盟 企画作品です。

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