天瀬平安物語
□邂逅と決別
1ページ/11ページ
はらはらと舞う白い花弁は、
もういない、あの人を思い出せる――。
◆◆◆
年の瀬の一番最後日の真夜中、急に母に起こされた。
「母様……?」
花雪は、急な事態に混乱しながら、怖い程真剣な顔の母を見た。
明日はもう新年で、とても忙しくなるから、今日は早く寝て身体を休めなさい、と諭され怖いが一人で茵に入った。
それから、何刻たっただろう?夜の帳が降りていることからまだ、夜明け前なのは分かる。
茵に入ったのが戌の刻ごろだった、と言うことはあれから四刻程か。
「花雪、これに着替えて、早く。」
そう早口に言うと、丁寧に包まれた着物を手渡した。
かさり、と包みをほどくと、出きたのは、白をを基準とした、袖のない着物に、普段着る紅より少し濃い色の袴。
肘から手首までは、白い布で覆うようになっている。
言われるがまま、袖に手を通し、母に尋ねた。
「母様、これは……?」
深雪はきゅっ、と帯を締め着終わった娘を見、一瞬哀しそうに瞳を細めた後、口を開いた。
「天瀬の当主たちが引き継いできた着物よ。」
花雪は母の言葉を聞いて驚いた。
母深雪は、現在の天瀬当主だ。
天瀬は代々、真の当主はその家の女性が就く。
天瀬当主が、引き継いできたもの。
それは、もはや神器同然のものではないか。
しげしげ、と自分が纏った衣装を見ていた花雪はあれ?と声を上げた。
―〈母様の、霊力……?〉
着物に宿る、清廉で力強い波動。
それは慣れ親しんだ母のものだ。
どうして、と口を開こうとした時、ばたばたと簀を駆ける足音がした。
がらっ、と慌ただしく入って来たのは女房の一人、美瀬(みせ)だった。
冷静沈着で、きりっとした雰囲気を纏う彼女は、深雪に長年仕える女房であり、優秀な巫女だった。
そんな美瀬が血相を変え「深雪様、」と呟いた。
それだけで深雪は全て悟ったようについ、と瞳を細め花雪の手を取った。
「花雪、いらっしゃいな。」