天瀬平安物語

□邂逅と決別
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はらはらと舞う白い花弁は、

もういない、あの人を思い出せる――。

◆◆◆


年の瀬の一番最後日の真夜中、急に母に起こされた。


「母様……?」


花雪は、急な事態に混乱しながら、怖い程真剣な顔の母を見た。


明日はもう新年で、とても忙しくなるから、今日は早く寝て身体を休めなさい、と諭され怖いが一人で茵に入った。


それから、何刻たっただろう?夜の帳が降りていることからまだ、夜明け前なのは分かる。


茵に入ったのが戌の刻ごろだった、と言うことはあれから四刻程か。


「花雪、これに着替えて、早く。」


そう早口に言うと、丁寧に包まれた着物を手渡した。


かさり、と包みをほどくと、出きたのは、白をを基準とした、袖のない着物に、普段着る紅より少し濃い色の袴。


肘から手首までは、白い布で覆うようになっている。


言われるがまま、袖に手を通し、母に尋ねた。


「母様、これは……?」

深雪はきゅっ、と帯を締め着終わった娘を見、一瞬哀しそうに瞳を細めた後、口を開いた。


「天瀬の当主たちが引き継いできた着物よ。」


花雪は母の言葉を聞いて驚いた。


母深雪は、現在の天瀬当主だ。


天瀬は代々、真の当主はその家の女性が就く。


天瀬当主が、引き継いできたもの。


それは、もはや神器同然のものではないか。


しげしげ、と自分が纏った衣装を見ていた花雪はあれ?と声を上げた。


―〈母様の、霊力……?〉


着物に宿る、清廉で力強い波動。


それは慣れ親しんだ母のものだ。


どうして、と口を開こうとした時、ばたばたと簀を駆ける足音がした。


がらっ、と慌ただしく入って来たのは女房の一人、美瀬(みせ)だった。

冷静沈着で、きりっとした雰囲気を纏う彼女は、深雪に長年仕える女房であり、優秀な巫女だった。

そんな美瀬が血相を変え「深雪様、」と呟いた。

それだけで深雪は全て悟ったようについ、と瞳を細め花雪の手を取った。

「花雪、いらっしゃいな。」
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