天瀬平安物語


人は、忘れていく生き物だけれど    

―でも

大切なこと、
幸せなこと、
嬉しいこと、    
覚えていたいことは沢山ある。

色褪せることなく 
消えることなく  
―覚えていたい。

桃の花、桃の花
溢れ落ちた思い出を
その純白の花弁に乗せて覚えていておくれ、

桃の花、桃の花、
忘れてきてしまったことを教えておくれ、
永久(とわ)にも等しい、人より遥かに永き年月を生きる桃よ、

聞いていておくれ
そして覚えていておくれ私の思い出  
私の想い 
全てをその幹に花弁に刻みこんで、

そして散り際に、教えておくれ、
忘れてしまった思い出を溢れ落ちてしまった思い出を

桃の花、桃の花、
教えておくれ、お前の見た物

桃の花、桃の花、
届けておくれ、あの空に
雪のような花弁に抱いて
吐息のような春風に乗って、

空を駆け、
海を渡り、
届けておくれ、あの彼方まで…。
忘れてしまった思い出を――。

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